419回目 州都攻略 9
「策はあるのか?」
「有るにはあります」
問われて将軍は答える。
その声も表情も重い。
尋ねた長官も、居合わせた重臣達も気が引き締まっていく。
「して、その策は?」
「……敵をこの都市に引きずりこみます」
将軍の声に、誰もが慄然とした。
「正気か?
いや、こんな事を言っては失礼なのは分かってる。
しかし、それは」
たまらず重臣の一人が声をあげる。
だが、
「他に術はありません。
敵を都市の中に引きずりこみ、接近戦を挑みます」
それしかなかった。
攻撃手段が分からない敵だ。
まともな戦い方は出来ない。
だが、それでも思うところはいくつかある。
「敵はどうも遠距離攻撃に優れてるようです。
ならば、接近戦に持ち込めばと考えてます」
「なるほど」
それを聞いて、意図を理解する。
弓などの遠距離攻撃を無力化するには、近づくしかない。
接近距離なら弓は弱いものだ。
だが、その距離を詰めるのが難しい。
近づくだけでも大変なのだから。
「だが、敵が都市に入ってくれば話は別。
物陰が多く、距離を詰めるのもさほど難しくはないかと」
どうしても市街地は接近戦になる。
通りや広場などはともかくとして。
「その通りや広場も、物を置いて塞ぎます」
そうして都市を迷路にする。
それから侵入してきた敵を撃退する。
「敵の攻撃方法は分かりません。
ですが、弓や魔術のような遠距離攻撃なら、こうした場所には弱いはず」
それを狙って、市街地に誘い込む。
「もちろん、事前に民は避難させます」
さすがに民衆を巻き込むつもりはない。
そこまで外道というわけではなかった。
もっとも、惜しいのは人命なのか労働力なのか。
そこがどうなのかは分からないが。
「とはいえ、障害物をおくにも人手が必要。
志願者はつのるべきかと」
「徴兵ではダメなのか?」
「志願で人が集まらねば、それもやむなしかと」
非常時ゆえに仕方が無い。
とはいえ、される側はたまったものではない。
「それしかないか」
こうして悩んで迷ってる時間も惜しい。
「それでいこう。
早速手はずをととのえてくれ」
「了解」
こうしてやることは決まった。
迫るトモルの軍勢。
それに対抗する為に州都内では様々な動きが出てくる。
民の避難と志願者の募集。
そして、敵の動きを阻害するために障害物の設置。
これらが一斉に行われていった。
その間にトモルの軍勢も移動をしていく。
州都の近くまで接近して布陣。
後方からの補給で弾薬なども補充。
次の戦闘に備えていく。
同時に、タカヤス配下の兵士達も呼び寄せる。
州都制圧後の占領をさせるために。
その際の事務処理などを進めるために、文官なども集めた。
既に勝利しているつもりでいる。
そんなトモル側の行動は、武器弾薬その他がととのってからになった。
まずは第一声。
魔術で声を州都全体に拡散出来るようにしてから行われた。
「聞こえるか、州都の者達よ」
この軍勢の指揮官である、トモル軍の旅団長が声を発した。
それは確かに州都全体に響き渡った。




