417回目 州都攻略 7
今回集められた兵士は、職業軍人である。
徴兵ではない。
言い換えれば志願兵だ。
そのほとんどは戦争を覚悟で兵士になった者達である。
だが、だからといって、本当に命がけで戦争をするというわけではない。
そんな志願兵であっても、逃げ出す者はいる。
無理矢理つれてこられた徴兵というわけではないのに。
そうした者達が敵へ向かう事無く離脱を始める。
それを見た他の者もつられていく。
自分からやりだそうという度胸はなくても。
他の誰かがやってれば追従する。
そんな事があちこちから起こり始めた。
「おい、何をしてる!」
見とがめた指揮官が、逃亡者を切り捨てる。
当然の処置だ。
敵前逃亡、しかも大事な時にである。
言って止めるなどという悠長な事は出来ない。
厳正な処分を即座に下してでも規律を保たねばならない。
しかし、それを見て素直に従う者ばかりではない。
そんな指揮官を見て、逆に斬りかかる者も出てくる。
逃亡者を切り捨てた指揮官。
その直ぐ近くに居た兵士は、そんな指揮官を手にした槍で貫いた。
一人ではない。
三人、四人と続いていく。
そうして指揮官を殺した兵士達は、顔を見合わせる事無くその場から逃げだそうとした。
そんな事があちこちで起こる。
逃げ出す者と、突進する者が衝突すら起こしていく。
この時点で、戦闘部隊としての機能は崩壊したと言っても良いだろう。
それでもない、命令に従おうという者もいたが。
そんな者達も逃亡者の群れに押し流されてしまう。
突撃は途中で止まる。
「撃てえええええええ!」
絶好の機会である。
敵は自ら動きを止めた。
それを見逃すほど、トモル勢はぼんくらではない。
団子状態になった敵に向けて、次々に射撃を加えていく。
この瞬間に、かろうじてあった敵の勝機が失われた。
もし、そのまま突撃をしていたら。
犠牲は大きかったにせよ、勝つ事は出来たかもしれない。
しかし、そんな死ねという命令を素直に聞く者がどれだけいるのか。
人としての情。
それを無視した命令だった。
そんなものを素直に聞くような輩は少ない。
それでも命令を出せたのは、武家である将軍だからであろう。
命を惜しむな、名を惜しめ。
武家に伝わる事がである。
死ぬのは当然、それよりも名誉や名声が損なわれるのを恐れよ、とでもなろうか。
戦うのが仕事の武家ならば、それも成り立つだろう。
そんな武家の出身者である将軍だからこそ、突撃という非情の命令を出せた。
しかし、命令を受ける側にそんな覚悟はない。
たとえ武家の出身者であってもだ。
教え通りに動く、名を惜しみ命を惜しまぬ者はやはり少ない。
それが将軍の限界だったのだろう。
確かに勝つことは出来る。
しかし、その為に多くの者を殺す。
死ねと言われた者達が、その指示に従うかどうか。
その結果が、はっきりと出ていく。
混乱をおこし、壊滅していく敵・藤園側と。
ギリギリのところで難を逃れたトモル側として。
進もうとする者、逃げる者。
その両者によって動きを止めた藤園側。
対して、一方的に攻撃を続けるトモル側。
もはや戦いにすらなってない戦闘は、当然ながらトモル側の勝利で幕を閉じていく。
藤園側の、州都防衛側の潰滅的敗北という形で。
的になった藤園側は次々に倒れていく。
トモル側としてはありがたい事だ。
それを見て、藤園側の将軍も撤退を決意する。
ただそれは、秩序立った動きによるものではない。
慌てふためき、我先に逃げ出す。
一人一人が別方向に走り出す。
そのせいで互いに邪魔し合い、結局足止めをくってしまう。
集団としてまとまっていた事が徒になった。
結局。
撤退に成功したのは8000ほど。
他は戦場で散ったか、いずこへともなく逃げていったか。
いまだ数の優勢は続いてるとはいえ、軍勢は当初の2割にまで落ち込んでいた。
それに対してトモル側の損害は無し。
一人も欠けることなく戦闘を終える事が出来た。




