410回目 敵の殲滅によって得られた効果
出撃から敵の鎮圧まで一週間足らず。
それで敵勢力の排除は終わった。
その事実が周辺に大きな衝撃を与えていく。
その情報はイツキヤマ側だけでなく、敵にも伝わっていく。
陥落した城からもたらされた最後の通信。
それが広く共有されていく。
また、陥落したという話は行商人などの一般人などを通じて伝わっていく。
もちろんトモル側からも伝えられている。
降伏は絶対認めないと。
助かりたければ、藤園の関係者の首を持ってこいと。
この二つが組み合わさり、あちこちで様々な騒動が起こり始めていた。
それはトモルにとっては好都合な。
敵からすると厄介な状態である。
確かに問題もあるだろう。
後に尾を引く事になるだろう。
どんな理由をつけたとて、降伏を認めず、全員皆殺しにしたのだから。
だが、降伏を受け入れるよりも、殲滅した方が良い結果になる。
そう踏んでトモルは実行した。
その事に後悔など微塵もない。
人は恐怖に従う。
自分より強い者にへりくだる。
こびへつらう。
それが悪癖だとしても、そういう性分がある。
逆に、慈愛や慈悲を示すものにつけいる。
舐めてかかる。
見下して利用しようとする。
これもまた人間の持ってる性分だ。
そういったものと無関係なものもいる。
善人と呼ばれる者は、そうした態度は取らない。
しかし、そうした善人は驚くほど少ない。
また、大きな発言権や力を得る事もない。
たいていの場合、場を仕切るのは、悪癖を持つ人間だ。
声のデカイ輩といってもよい。
そういった者達はえてして卑屈で卑怯。
自分がよければそれでいい。
嘘も言い訳もするし、それを押し通す。
そうして自分を守ろうとする。
何より、手段を選ばない。
自分のためなら何でもする。
そうした性分や習性をトモルは認めていた。
存在するのを認めている。
だから利用していく。
かなわない程強い敵。
それがやってくると知れば、自ずとそれに見合った行動をしていく。
まずは逃げる。
逃げて脅威から逃れようとする。
それがかなわないなら、敵にへつらっていく。
媚びる手段として、敵に都合のよい行動をしていく。
裏切りがその最もわかりやすい例になる。
迫る敵よりも、身近にいる味方を倒す。
倒して、敵にすりよる。
こうしてあなたの敵を倒してきたから、私は味方ですと。
脅威に立ち向かい、自分達を守ろうとはしない。
そんな事は善人がする事だ。
卑屈で卑怯な輩のする事ではない。
だからこそ、悪人は悪人と言える。
トモルはそんな輩を信用する気は無い。
信頼など決してしない。
ただ、都合が良いから利用するだけだ。
そうして敵を内部から食い荒らしてくれるならありがたい。
敵を弱体化出来るならありがたい。
そうして利用してから、まとめて殺すつもりである。
簡単に裏切る輩共だ。
生かしておけば、自分の不利になる。
それが道義に外れてるとも思わない。
道義に外れた者に、道義をもって報いるなど馬鹿な事はしない。
卑怯には卑怯を。
卑劣には卑劣を。
嘘や騙しには、同じように嘘と騙しを。
それこそが、公平というものだ。
「こちらに寝返った者。
裏切った者。
それらは見つけてまとめておけ。
厚遇をもって迎え入れろ。
そうして確保してから、殺す」
処遇はそのように決めている。
これを主な者達に伝えてもいる。
そうと知らぬ者達は、己の身を保つ為に裏切っていく。
その末路がどうなるかも考えもせずに。
そうした裏切り者達によって、敵は内部から崩壊していく。
その恩恵を受けながら、トモルは軍勢を進めていく。
州都に向けた軍勢。
トモルの配下を先頭にした、二個連隊。
これが州都に迫り、敵とぶつかりあう事になる。




