408回目 間近にいる敵勢力をまずは叩く 7
翌日。
トモル側の軍勢は日が昇ると同時に行動を開始していく。
距離を置いて展開した砲兵が攻撃を開始。
敵の城を砲撃していく。
最初に放たれた一発が着弾。
それに大量の砲撃が続く。
城壁が、城が破壊されていく。
城内にいた者達はいきなりの事に驚いた。
何が起こってるのかは分からない。
ただ、自分達のいる場所のあちこちで爆発が起こってる。
その直撃を受ける者も、砲撃の効果範囲にいる者も、等しく死んでいく。
かろうじて生き残っていた者達も混乱していく。
何せ、原因不明の攻撃で城が崩れているのだ。
周りで仲間も死んでいる。
これで落ち着いていられるわけがない。
「なんだこれは」
「新開発された魔術か?」
首脳部にいる者達は、加えられる攻撃をそのように受け取っていく。
彼らの知らない新しい魔術。
それが開発されたのかと。
実際には違うのだが、この世界の住人としては当然な反応だろう。
ただ、攻撃を受けてるという事実は変わらない。
それが城を破壊しているという事も。
戦争の一部であるという事は変わらない。
「とにかく、全員に身を隠すように伝えろ。
これが終わったら、敵が来る」
戦争の定石通りに考えればそういう事になる。
城への直接攻撃。
それにより防御を破壊しての内部突入。
「それまではなんとしても持ちこたえろ」
扱う武器が大きく変わっても、戦争の様態がそれほど変わるわけではない。
技術や文明がどれほど発達しても、人の有り様が変わらないように。
攻城戦であるならば、定まった流れというものがある。
まずは城への攻撃。
それが終わってから人が突入してくる。
城を制圧するなら、そうするしかない。
(だが……)
ここで城主は思う。
もし、相手が城の制圧を考えてなかったら。
敵対勢力そのものの殲滅を考えてるなら。
(このまま、この攻撃を続けるだろうな)
占領や制圧は、その場所なりを手に入れるために行う事だ。
だからこそ、占領の為に人間を置く。
でないと統治が出来ないからだ。
しかし、もしそのつもりがないならば。
城主はその可能性を考えていた。
何せ、相手は情け容赦のないトモルだ。
その事は彼も知っている。
様々なところから漏れ聞く話。
彼自身が集めた情報。
そこから考えるに、トモルは敵に対して一切の容赦がない。
(だとすれば)
そんな人間が、わざわざ占領などを考えるのか?
手間も時間もかかる事をするだろうか?
城主はそう考えていく。
もし、占領ではなく殲滅が目的ならば。
このまま攻撃を続けた方がよい。
その方が面倒がない。
(まずい)
このままここに留まってるわけにはいかない。
もし、本当に殲滅しにきてるなら、和睦など通じない。
交渉そのものを受け付けないだろう。
停戦や休戦もない。
城主達が死ぬまで攻撃の手をゆるめはしないだろう。
「……逃げる」
口から出した声は小さなものだった。
周囲にいる側近達にも伝わったかどうか。
しかし城主は周りの者達に自分の意思をはっきりと伝えていく。
「逃げるぞ!
全員、城外への撤退だ」
その指示伝達は困難を極めた。
攻撃にさらされてる最中だ。
城の中にいる味方の所にいくのも難しい。
しかし、伝令の兵達は懸命に職務を全うしていった。
おかげで生き残りの何人かには指示が伝わった。
そうして集まったのが300人ほど。
兵士だけでなく、城内にいた使用人などを含んだ数だ。
それも数がかなり減っている。
兵士は200人ほどがいたのだが。
それが半分にも満たない数になっている。
表に出ていなかった使用人も、砲撃のあおりで何人かが犠牲になってる。
もちろん、城内に取り残されてる者もいるだろう。
指示が届かずにいる者も。
道が崩れて身動きがとれない者もいるかもしれない。
しかし、それらを探したり助けたりする余裕はない。
「逃げるぞ」
城主は目の前に集まった者達に指示を出していく。
トモル勢が攻撃を仕掛けてくるのとは別方向。
そちらの門を示す。
「あちら側から逃げろ。
まだ敵はいないはずだ」
その言葉に、生き残った兵士や使用人が頷く。
そして、脱出が開始される。
破壊されていく城内から。
その手に白旗をもって。
この世界でも、降伏や戦意のない事を示すために白旗は使われている。
しかし、それも無意味である。
回り込んで展開していた戦闘車両や、輸送されてきた兵士が攻撃をしかける。
銃弾に撃たれて、兵士や使用人達が倒れていく。
「我々は降伏を一切認めない」
城の外から、音声拡大の魔術で声が届く。
「藤園に連なる者は全て排除する」
その声に城内にいた全ての者達は絶望した。
生き残りたければ、戦って勝つしかないという事なのだから。
「……ここまでか」
城主はそう言うしかなかった。
もうどうにもならない、その事は彼自身がよく分かってる。
城に受けた攻撃から、相手が尋常ならざる能力を持ってるのは分かっていた。
戦っても勝ち目はないと。
そんな城内の者達に、更に砲撃が加えられていく。
城壁が門と共に破壊されていく。
城ごと叩き潰そうとするかのように。
実際、それは砲弾が尽きるまで続けられた。
続きは金曜日




