407回目 間近にいる敵勢力をまずは叩く 6
その時、彼らは戦支度で城内にいた。
さすがにこの状況で悠長に園遊会をひらいたりはしてない。
貴族の中にはそういう愚か者もいるが。
ここにいるのは立場や勢力を手に入れてる者だ。
そこまでの愚か者は少ない。
というより、自分の手にあるものを守るのに必死だ。
それを失いたくないという欲望に正直なだけではある。
だが、それが勤労意欲や実際の業務に正しく反映されている。
それだけでも十分ではあるだろう。
そもそも、人間は理想や理念よりは、欲望で動くものだ。
何も間違ってはいない。
そんな者達だけに、決して油断などしてない。
敵を侮る事無く、対処を進めている。
そうでなくてもここ数年、様々な騒乱が起こってる。
それらへの対応で、嫌でも実績を積み上げている。
だが、現実は無常だ。
前線からそんな彼らに連絡が届く。
戦闘部隊とは別に行動させておいた通信魔術部隊から。
それらが、声を飛ばして伝えてくる。
「我が軍壊滅!」
その情報に城内が凍り付く。
「馬鹿な!」
報せを受けた城主は声を張り上げた。
「そんな、馬鹿な。
あれだけの兵力、そう簡単に覆せるものでは……!」
今回繰り出した兵力は小さなものではない。
大軍とはいえないまでも、この近隣で考えるならかなりのものだ。
それが負けた、しかも壊滅などと。
にわかに信じられるものではない。
「……間違いはないのだな」
「受け取った報告は、確かにその内容でした」
「そうか……」
一旦は取り乱した城主だが、すぐに気を取り直す。
どんな凶報であろうと、事実ならば受け取るしかない。
それくらいの事はわきまえている。
「分かった、防備を固めさせろ。
敵がやってくる」
即座に指示も出す。
「それと、この事を後方に伝えろ」
情報のやりとりは重要だ。
どこで何が起こってるのかを知らねば、今後の行動を決める事が出来ない。
その為にも城主は、この地で起こった事を後方に伝えるように指示を出す。
今後の戦略に関わるからだ。
どんな小さな事であっても、起こった事はそのまま伝える。
情報共有の基本だ。
これが出来ないと、現状が把握出来なくなる。
それは勢力そのものに大打撃を与えかねない。
急ぎ城内から後方への通信がなされていく。
魔術を使って、声を遠方に届けたり。
伝令の馬を走らせたり。
使える通信手段の多くを使っていく。
幸いにもそれらはしっかりと後方に届いていく。
トモルもそこまで手を回せていない。
通信妨害はしておきたいとは思っていたのだが。
その為の手段がない。
なので、イツキヤマ付近の情勢は藤園の勢力に届く事になる。
それを受け取った者達は対応に動いていく。
だが、そんな彼らも度肝を抜かれていく事になる。
後方に情報を送り、防備を固めていく敵勢力。
そんな彼らの前に、トモルの軍勢があらわれる。
戦闘を行なったその日のうちに。
彼らは即座に戦闘態勢をととのえていく。
長距離砲を設置し、兵士の配置を完了させる。
後方からの補給で、消耗した弾薬も回復した。
やろうと思えば、即座に戦闘が可能だった。
もっとも、その時点で既に日が暮れていた。
さすがに夜に戦闘が出来るわけではない。
それだけの装備は持ち合わせていない。
なにせ、懐中電灯もまだ開発段階なのだ。
暗くなれば、大人しくしているしかなかった。
それは敵も同じで、城の中に籠もっている。
もちろん彼らは、明かりを灯して防衛のための作業を行なっていたが。
外に出て何かを行おうとは思ってなかった。
夜襲をしようにも、敵勢には兵力がない。
それなりの成果を得られたかもしれないのだが。
あちこちに潜伏させてる偵察の情報で、敵の数は自分達を上回ると分かっていた。
そんな所に奇襲をかけても、効果があるかどうか。
上手くいけばいいが、貴重な兵力を更に減らしては元も子もない。
そう考え、城内に籠もる敵勢は防御に専念する事にした。
やってくる増援を期待して。
その判断が正しかったのかどうか。
それは分からない。
もし、どちらかが夜であっても構わず攻撃を仕掛けたら。
この争いはもう少し早く終わっていたかもしれない。
どちらかの勝利として。
しかし、その機会は既に失われた。
両軍ともに次の日を迎えていく。
そして、あらためて戦闘に突入していく。




