405回目 間近にいる敵勢力をまずは叩く 4
「敵、壊滅状態とのこと。
ただし、まだ残存兵力あり」
「分かった」
前線からの報告を受けた連隊本部。
その中で全体の指揮をとる指揮官は、次の行動を指示する。
「追撃だ」
敵はほぼ壊滅状態。
それはありがたい。
だが、そのまま放置というわけにもいかない。
再編されて立ち向かってきたら面倒だ。
そうなる前に、一気に片付ける。
その為に部隊を動かしていく。
指示はすぐに部隊に届けられる。
それを受けて部隊は動き出す。
自動車とそれに乗る兵士達。
彼らは戦場を目指して進んでいく。
まだ混乱の中にあった敵勢。
それでもどうにか生き残りが合流していた。
ただ、指揮官が死亡しており、統率がとれない。
この中で序列が一番高い者が指揮をとる事になるのだが。
それが誰なのかの確認で時間が取られてしまっていた。
そんな敵を目指して、トモル側の部隊が襲いかかる。
先陣を切るのは、機関銃搭載の自動車。
運転手と、助手席の車長。
そして、機関銃手と弾薬の装填手。
この四人が乗る戦闘専用車両だ。
この戦闘車両が4台、敵に突っ込んでいく。
射程に入るやいなや、搭載した機関銃を発射しながら。
交換式の箱形弾倉に装填された40発が撃ち出されていく。
それらは密集していた敵をなぎ倒していった。
部隊ごとに固まっていた敵はひとたまりもない。
撃ち尽くせば弾倉が交換され、また射撃が開始される。
そうしていくうちに、敵は更に残りを減らしていく。
敵も黙ってるわけではない。
弓や魔術による遠距離攻撃が行われていく。
だが、戦闘車両には装甲が施されている。
歩兵銃くらいの銃弾なぞ、簡単にはじき返すものをだ。
弓矢では話にならない。
魔術も似たようなものだ。
火炎や雷撃が襲いかかる。
だが、それも装甲表面をあぶっただけ。
人間であれば大きな殺傷力を発揮しただろうが。
装甲の厚い戦闘車両には無意味であった。
そんな戦闘車両を先頭にして突進する。
敵は壊乱状態だった。
それに続く自動車部隊も威力を発揮する。
荷台に乗った兵達が、手にした銃で次々に敵を倒していく。
鎖閂式ではない、自動装填式の歩兵銃だ。
引き金を引けば、自動的に次弾が装填される。
その発射速度は大きく、敵を次々に倒していく。
弾丸を撃ち終わっても、弾倉を交換して次の攻撃を行う。
これも交換弾倉になっており、弾丸を一発ずつ詰め込む必要がない。
その射撃速度は、敵を次々に死体にしていく。
「なんだあれは…………!」
敵勢の指揮官は呆然とする。
馬が引いてない馬車と言うような何か。
そんな矛盾した車両がやってきて、味方を蹂躙している。
なんとか対抗しようにも、それもままならない。
弓も魔術もはじき返される。
近づこうものならば、車中から何かをされてしまう。
それが何なのか分からないが、大きな破裂音と共に兵士が倒れていく。
「新しい魔術なのか?」
そんな風に考えるのは、この世界の住人なら当然だろう。
だが、その答えを彼らが知るよしもない。
彼らには知り得ぬ技術で成り立ってるものなのだから。
彼らに分かるのは、味方が倒れ続ける現状だけ。
そんな中で指揮官の一人は、最適の答えを出す。
「…………撤退!」
逃げる。
今、敵勢に出来る最も効果的な行動はそれだろう。
踏みとどまって戦っても、全滅するだけだ。
一矢報いる事も出来ない。
ならば、少しでも誰かが生き残れるように逃げる。
それしかない。
しかし、それすらも簡単にはいかない。
疾走する自動車部隊。
それは逃げだし始めた敵を追いかけ、次々に撃ち殺していく。
わずかに生き残った騎兵も例外ではない。
全力で逃げだそうとする馬も、機関銃の連射の前では無力だ。
徒歩の歩兵はもっと悲惨だ。
銃に狙われて次々に倒れていく。
戦闘とも言えない戦闘は、そんな調子で進んでいく。
一方的に倒されていく敵勢。
それはもう蹂躙としか言いようのないものだった。
こうして800の軍勢のほとんどは消滅していった。
とはいえ、生き残りがいないわけではない。
砲撃を受けた直後。
恐れをなして逃げ出した者達。
それらはこの戦闘で生き延びる事が出来た。
また、そのうちの何人かは、この場に留まって、その後の様子を見ていた。
これらの者達が、逃げ延び生き延びてこの様子を後世に伝える。
人数はわずかだが、彼らが歴史の生き証人になる。
しかし、情報が敵勢に届けられる事は無かった。
どんな言い訳をしようとも、敵前逃亡である。
そんな者が許されるわけもない。
戻ったところで処刑されるのがオチだ。
たとえ、貴重な情報を持っていたとしても。
それを恐れて、逃亡者達は自分達の領主などのもとには戻らなかった。
その為、敵勢は何も知らないままに敵の攻撃を受ける事になる。
逃亡者達も、自分達の正体が露見するのを恐れて口をつぐむ。
ようやく事の次第を話し始めたのは、この戦闘が終わって何年も経ってから。
統治者が代わり、身の安全が確かなものになってからになる。
それでもこの戦闘は歴史上に大きな意味を持つようになる。
従来の戦闘方法が通用しなくなった事。
トモルの軍備が絶大な威力を発揮する事。
その事を証明する事になったのだから。
それは、続く攻城戦においても証明される。




