404回目 間近にいる敵勢力をまずは叩く 3
奇妙な音が聞こえた。
彼らが今まで聞いた事がないものだった。
それが何を意味するのか分からないうちに。
彼らの近くの地面で爆発が起こった。
それが砲弾の着弾などと分かるはずもなく。
遠く離れた場所から飛来したなどと知るはずもなく。
突然起こった出来事を、彼らはそう感じ取った。
「なんだ、あれ」
「いきなり破裂したぞ」
そう思うのも無理もない。
実際、砲弾は確かに破裂した。
榴弾と言われるもので、着弾地点を中心にして、四方に破片を飛ばす。
その効果範囲は数十メートルを超える。
直撃はもとより、効果範囲にいれば損害は避けられない。
まして、装甲戦闘車両でもない人や動物が受ければ。
幸いにも、着弾地点は軍勢の居る場所からは離れていた。
おおよそ、100メートルほどだろうか。
ただ、その一発は着弾地点をはかる為のものだ。
「敵軍より100メートル離れてる。
次の位置に修正せよ」
敵地近くにいた斥候が報告をする。
電信で伝えられたその情報をもとに、長距離砲部隊は修正を施していく。
そして。
「撃て!」
本格的な砲撃が始まる。
20門の砲が一斉に攻撃を開始する。
放たれた20発の榴弾が敵をめがけて飛ぶ。
修正を施された榴弾は次々に敵軍に着弾していった。
誤差はどうしても大きくなるが、まとめて何発も着弾すれば関係がない。
直撃を受ける者。
直撃は免れたが、榴弾の効果範囲にいた者。
それらが次々に粉砕されていく。
分厚い板金の鎧に身を包んでいても関係がない。
人間が装着できる程度の装甲で、爆風も破片もしのげるものではない。
馬車も次々に吹き飛んでいく。
破壊されるもの、横倒しになるもの。
どれも無事では済まない。
当然、騎兵の馬もとばされる。
乗っていた騎兵と共に肉片になり、文字通り人馬一体となる。
最初の一回だけでも相当な損害を敵に与えていく。
敵軍はそれで総崩れになる。
しかし、攻撃が一回だけで終わるなんて事は無い。
続いて第二射が敵に襲いかかる。
二度目の着弾。
それにより、また敵が吹き飛んでいく。
三回目、四回目と繰り返される事で、敵は更に吹き飛ぶ。
その時点で、敵はほぼ壊滅状態になっていた。
「射撃やめ、射撃やめ」
電信で前線からの情報が入る。
「敵、ほぼ壊滅状態。
これ以上の砲撃は不要」
その報告を受けて、砲撃が止まる。
敵からすれば何が起こってるのか分からなかった。
800の軍勢の周囲でいきなり爆発が起こったのだ。
それに巻き込まれて、ほとんどの者達が吹き飛んだ。
残ってるのがどれくらいなのか。
それも分からない。
「撤退、撤退!」
「とにかく集合しろ!」
あちこちから声があがる。
それが誰からのものか分からず、兵が狼狽える。
誰の、どの指示を聞けばいいのか。
そもそもとして、兵も己の事で手がいっぱいだ。
指示を聞ける状況ではない。
突然の事に呆然となってしまってる者。
怯えて周囲を見渡す者。
こんな状況でも気を保ち、これからの事を考える者。
様々な反応を一人一人が示している。
混乱状態というにふさわしい。
その中でも、何人かが我先にと逃げ出す。
珍しい事ではない。
脱走兵や逃亡者は戦場では珍しくもない。
負ければそういった者も出てくる。
だが、この中で最もよい判断を下したのは、逃げ出したその者達だろう。
その後に起こる事を考えれば。




