38回目 された事に報復を、罪を犯した者に憎しみを
スミレの横暴があったその日。
あらためて夕餉の宴が催され、やってきた者達は一晩泊まる事になる。
早急に帰れば誰もがその日の夕暮れ前には自宅に到着する事は出来る。
だが、やってきた者達を一泊も歓待させないで帰すのは、貴族として恥ずべき事になる。
状況次第ではあるが、平時の特に問題も起こってない時ならば、せめて一泊はさせてゆっくりと送りだすのが礼儀とされている。
それはそれで迷惑な話ではある。
目上の者の館に寝泊まりするというのは、一晩中気を使ってなければならなくなる。
決してゆっくりとする事など出来ない。
それよりもさっさと家に帰してもらいたいというのが、下につく者達の本音である。
だが、この時のトモルには、この一泊がありがたかった。
誰もが寝静まった頃合いを見計らって、トモルは動き出す。
部屋を出て母屋へ。
目指すはスミレの寝室。
そこへ向けて静かに動き出す。
こんな事のために鍛えたわけではないが、潜伏/隠密の技術が活きる時だった。
モンスター退治で鍛えた技術で、屋敷の中を進んでいく。
それほど厳重な警備がなされてないので、難しい事は何もない。
よほど上位の貴族でもない限り、屋敷の警備などは割とゆるいものだ。
無理して侵入するほど何かがあるわけでもない。
警備が厳重になるのは、何かしらの事件が起こったり戦争でも起こった時くらいである。
一応、形だけの警備はある。
だが、適当に見回りをする程度で、実質的な効果は低い。
それでも多少は効果があったりはする。
だが、本気で侵入を考えてるトモルの前では無意味であった。
労せずに目的の部屋へと辿りついていく。
部屋の中にはいったトモルは、そこで寝てるスミレを発見すると、まずは腹に蹴りを叩き込んだ。
踏みつぶす勢いで足裏を沈めたおかげで、スミレは苦しみもだえる事になる。
だが、それで終わりにするわけではない。
色々と持ってきた道具を用いて、すぐに拘束していく。
挨拶回りには必要のないものばかりであったが、何かあった時に備えてである。
まさか本当に役立つとは思ってもいなかったが。
(用意はしておくもんだな)
そう思いつつ縛り上げたスミレを担いで外に出た。
そのまま敷地の中の死角になる場所へと向かい、スミレを地面に落とす。
肩から本当に地面に落としたのだ。
高さそのものはさほどではないが、ろくに身動きがとれない状態だったので、スミレはかなりの衝撃を受ける。
自身の重さも災いした。
衝撃で呼吸困難になってるスミレは、苦しげに体をよじる。
だがトモルはそんなスミレの髪の毛を掴んで持ち上げる。
傍から見れば驚くべき光景であっただろう。
子供が苦もなく自分より体重のありそうな存在を持ち上げてるのだから。
だが、目撃者のいないこの場では感嘆も驚嘆も起こらない。
ただスミレが痛みで悲鳴をあげるだけである。
いや、あげそうになった。
だが、その前にトモルの拳が顎に叩き込まれた。
親にも叩かれた事の無いスミレは、その衝撃に頭を揺さぶられた。
「うるせえよ」
その言葉を合図にトモルはスミレへの攻撃を開始した。
容赦など一切無い、大人並みの…………いや、下手な大人以上の力で遠慮無く。
渾身の力を、格闘技能で効率良く活かしながら。
ろくに運動をしたこともない子供に耐えられるわけがない。
すぐにスミレは半死半生になる。
だが、死ぬ事は決してない。
その都度トモルが回復魔術をかけるからだ。
痛みがひいていき、怪我も治る。
そこで安堵したスミレは、再びトモルの打撃を受けていく。
何発も何発も。
時に地面に投げつけられ、全身に衝撃を受けもする。
頭を地面に叩きつけられもした。
急所への打撃は当然のように行われた。
それは令嬢の想像を絶する地獄だった。
トモルは回復魔術を何度も何度もかけながら攻撃を加えていった。
時には自分に回復魔術をかけて体力を回復する。
ただひたすら、時間のゆるす限り攻撃を加えていった。
日中、スミレがやった以上に。
報復とは、相手がやらかした以上の事をやり返さないと意味がない。
だからトモルは何一つ躊躇うことなく、自分の出来る限界までやってやってやり尽くしていった。
魔術に用いる精神力がほどほどに無くなるまで。
それも並の人間以上に保有してるトモルによる攻撃は、その後も長く長く続いた。
だがそれでも足りない。
(こいつが今までやってきたよりも更にやってやらないと)
被害者はトモル達だけではないはずである。
使用人や他の貴族の子供達も同じような目にあってるはずである。
その分も代わりにやってあげないと申し訳がなかった。
その後、夜が明ける前にスミレを部屋に戻し、トモルも部屋に戻った。
怪我も治し、体は万全な状態で。
部屋を出るまえには、急所をついてスミレを気絶させるのも忘れない。
そうしてから布団に戻り、何食わぬ顔で起きていった。




