36回目 物憂い挨拶回り 2
儀式が終わったトモル達貴族の子供達は、ようやく解放された喜びに身を浸らせていた。
ただ、長い時間正座していたので、大半の者達は足をしびれさせていた。
あまりにも哀れだったので、トモルはそんな彼等に気づかれないように治療魔術を使った。
もちろん自分自身にも。
気づかれないように行なったので、周りの誰もが普通に立てる事に驚いていた。
なんで自分の足はしびれてないのかと。
だが、その理由についてあれこれ悩む間もなく次の行事へとうつっていく。
顔見せの行事が終わればあとは宴会となる。
互いの親睦を深めるためという名目で。
だが実態は、あらためて彼等を束ねる貴族への追従をする場となっている。
下手に機嫌を損ねたら今後に差し障るのだ。
これらは同席する親が貴族の相手をするので子供はさして面倒ではない。
ただ、黙って大人しくしてれば良いのだから。
しかし、子供にとってそれは酷な事であるのも確かだ。
本来ならば、子供達の成長を祝い、そこまで育てた親を労う場であるのだが。
参加者達の苦行の場にしかなってないのが実情だった。
楽しんでるのは、耳に心地良い言葉を聞く長者の貴族だけである。
それが終わってもまだ苦行は終わらない。
宴が終われば、今度は子供達だけで楽しんでもらおうという名目で解き放たれる。
これは本当に子供達だけが庭で遊ぶ事になっている。
親はともかく、子供の方は息抜きが出来る…………とはならない。
確かに子供同士ではあるのだが、そこには長者の貴族の子供も加わる。
そうなると子供同士とはいえ力関係が絡んでくる。
もし、周辺の小領主の子供達だけであるならば、まだ少しは気楽にやっていけたかもしれない。
立場の上では同等であるのだから。
しかし、そこに一つだけでも立場が上の子供が入ってくるとそうはいかなくなる。
途端に子供同士の間でも上下関係が入りこんできてしまうのだ。
更に悪い事に、この子供というのが、そんな立場を笠に着て偉そうにする奴なのである。
その事を聞き及んでいたトモルは、どうしたもんかと頭を抱えていた。
「あんた達!」
長い拘束に辟易していた子供達に怒鳴り声がかかる。
甲高い、女の子のものだ。
それを聞いた各小領主の子供達は一斉に顔をしかめた。
声の主はそんな事気にもせずにやってくる。
「さ、こっちに来て並びなさい」
命令するのが当たり前といった調子のその声に、子供達は嫌そうな顔をしながらも従う。
トモルも一応はその声に従ってそちらへと向かった。
何せ相手は機嫌を損ねてはいけない者の一人である。
この館の主の娘。
森園スミレなのだから。




