33回目 原因がどこにあるのかを確かめてみると
冒険者とて荒くれ者揃いというわけではない。
確かに武装してモンスターなどと戦う事が主な仕事ではある。
だが、山賊や盗賊などのように悪辣な者達というわけではない。
たいていが食い扶持にありつけない農家の三男坊以下の子供がなってる場合が多い。
心情的には犯罪者よりも一般国民の方に近い。
乱暴者は割と少ないというのが実情だった。
そんな冒険者だから、領主などと事を構えようと思うものはそう多くはない。
なので、反乱を起こすというのは本当に希な事件という事になる。
その原因にあげられるのは、だいたいが契約不履行になる。
領主達が絡む場合、契約の隙間をついたり、権威で押し通そうとする事がほとんどだった。
そんな事をするような領主も多くはない。
たいていは契約通りに報酬を支払おうとする。
即座に金が用意出来ない場合などは、分割で支払う事がある、
その場合、支払いきるまで時間はかかってしまう。
それでも約束通りに報酬を支払おうとする。
人間としての良心から、そして領主としての矜恃からでもある。
約束を違える者など、そのうち人間として信用されなくなるのだから。
また、冒険者という底辺の仕事と見られてる者達との約束すら果たせないというのは、貴族の看板に傷を付けかねない。
それは冒険者を見下してる事からくる考えではある。
なのだが、それが逆に契約や支払いの遵守に繋がってもいた。
しかし、そうでない者達も世の中にはいる。
たかだか冒険者相手に、と考える者達の中には、そんな連中など適当にあしらえばよいと思う者もいる。
いや、思うだけなら良いのだろうが、確固たる信念になってる者すらもいる。
特権を振りかざすだけで、それが貴族や統治者としての義務に付随するものであると考えてない連中だ。
こうした者共は、契約を当たり前のように破る。
彼等に言わせると、
「下賤な者共(貴族以外の民衆を指す場合がほとんど)をどうして対等に扱わねばならぬ」
という事になる。
貴族同士ならば約束事なども守らねばならぬ。
しかし、対等でない存在相手にそんな事をする必要は無いという事だ。
言ってしまえば動物や虫などと約束を交わすのか、という認識である。
なまじ地位や階級というものが明確に違うから出て来る発想なのだろう。
だからこそ、契約をふりかざしてくるのも片腹痛い、という認識でいる。
こういった連中が契約を踏み倒したり、地位や階級という権威を振りかざしてくる。
冒険者の反乱は、たいていこういう場合に発生していた。
「そのような事をするから彼等も腹を立てるのです。
彼等を見下したりせず、契約を遵守すれば彼等は問題を起こしません。
少なくとも彼等はそう言ってます」
もちろん、冒険者自身の自己申告など説得力は無いだろう。
だが、約束事を守らないでいれば冒険者も信用に関わる。
受けた仕事をしっかりこなすかどうかは、冒険者として仕事を受けられるかどうかに関わってくる。
ここで無茶をするほど彼等も愚かではない。
だからと言ってすぐに信用出来るわけもないのも確かだ。
信用や信頼というのは長い時間をかけて構築せねばならない。
だからトモルは多少の妥協案を出す。
「信用出来ないのは仕方ないでしょうが、今少し彼等の様子を見てあげてはどうでしょうか」
とりあえず時間をかけて観察していこうという事だ。
それもそうかと父は納得していく。
完全に信用したわけではないのだろうが。
それでもトモルには充分だった。
(これで冒険者が駐留する事が出来る)
名目はこの際どうでも良い。
冒険者の居留を認めなくても良い。
そこに居るという実績が欲しかった。
幸い、それだけはどうにか勝ち取る事が出来た。
あとは、冒険者次第であるが、暫くは村の外れにいてくれる。
それで万々歳だった。




