306回目 たとえ末端でもその地位は大きく高いのだから、利用する価値はある 7
「良く来てくれた」
広間で謁見した王族は、トモルにそう声をかけた。
当代の当主。
それとその子息。
並びに、出席可能な臣下達。
それらが集まっている中で。
辺境にある小さな領地の小さな館、規模そのものは小さい。
しかし、王族による催しとあって、その権威は決して小さくはない。
少なくともこの近隣には絶大な影響を及ぼすだろう。
それが今、それなりに厳かに始まっていく。
さすがにトモルもかしこまって頭をさげる。
「はっ!」
身につけた礼儀作法のおかげで、立ち居振る舞いに問題は無い。
こんな時だが、ゲームのような技術レベル制度はありがたい。
本来なら何ヶ月もかけておぼえ、何年もかけて身にしみこませていかねばならない。
それも教師がいて初めて可能だ。
それをレベルアップの時に得られる技能点を割り振るだけで手に入れる事が出来る。
それも一瞬にして会得させてくれる。
これのおかげでトモルは、特に学んだわけでもないのにそこそこの振る舞いを手に入れる事ができている。
それを更にその後成長させてきたので、トモルはそこそこ円滑に動くことが出来た。
「見事なものだ」
見てる当主がそうやって感心するくらいには。
「まだ若いながらそれほどの振る舞いを身につけているとは。
音に聞く柊の御曹司は、やはり傑物であったようだな」
「おそれいります」
かしこまったそぶりを見せていく。
内心がどうであれ、相応の態度はとっておく。
今日は喧嘩を売りに来たのではない。
さすがに相応の態度はとっておく。
それくらいの分別は持ち合わせていた。
それも今後の相手の態度次第ではあるが。
ともあれ、今は場の雰囲気にあわせていく。
「わざわざ呼び寄せたのは他でもない」
当主が本題に入っていく。
「そなたの働き、実に見事であった。
おかげでこの地に賑わいが生まれてきている。
礼を言うぞ」
「ありがたき幸せ」
下心満載で行なった事であるが、礼を言われればそれなりに嬉しい。
そして、その次に続く事も。
「その働き、あげた功。
それらを称え、そちを適当な任を命ずる」
本題がやってきた。
この場合の適当とは、適切な対応を取るという意味である。
決して蔑ろにするといった事ではない。
それだけの働きをしたという事を認め、それにふさわしい待遇を与えるという事である。
先に内示を受けていたので内容自体はトモルも知ってはいた。
それが口約束ではなく厳然たる事実となろうとしている。
「柊トモル。
そなたを造営当。
ならびに征討当に任ずる」
「はっ!」
これでトモルの国内の立場が確定した。
造営当は土木や建築担当。
征討当は敵やモンスターとの戦闘担当。
共にトモルのしてきた事だ。
それを追認するという形になる。
トモルの活動が認められたという事になる。
ただ、これらは正式な役職や地位というわけではない。
公式に制定されたものではない。
こう述べるとややこしく紛らわしくなるが、ある意味非公式な、緊急の立場である。
基本的に公的な立場や役職といったものは、法律などによって定められている。
これらは主に貴族が代々受け継いだり、試験を通った役人などがなる。
国の中枢などにいる政治家や役人はこれらにあたる。
しかし、これだけで国を運営する事は難しい。
時と場合によっては、ここにある地位や役職では対応出来ない事もあるからだ。
それらに対応するために、非常時や非常勤の役職を制定する事がある。
現状では対応出来ない場合に備える為だ。
任命によって与えられる役職などはたいていこれになる。
法律でもこれらを規定する条項がある。
なので、公的なものでは全くない、とは言えない。
しかし、正式なものだとも言えない。
どうにも中途半端な、あるいはどっちつかずな印象を抱く事もあるだろう。
トモルが与えられたのは、そんな緊急事態対応の役職である。
ただし、全く意味がないというわけではない。
既に述べた通りに、任命されるという事で任命者が認めたという証として見られはする。
また、緊急的なものであっても、法律などによる後ろ盾もある。
勝手に言ってるだけというわけではない。
ものによっては、代々受け継がれていき、半ば公然としたものとなってるものもある。
何より、実権を伴わない栄誉を与えるという意味では実に使い勝手がよい。
その為、名ばかりの名誉職を与える場合の良い手段となっている。
トモルの与えられたものも、そういったものだ。
役職名っぽい名前ではあるが、実権はほとんどない。
公的なあだ名やニックネームが付けられたようなものである。
だが、それでもトモルが求める効能は十分にある。
「ありがたき幸せ!」
そう言って頭を下げるトモル。
求めたものが手に入ったのだ。
素直なお礼の気持ちもわいてくる。
実権はないが、王族のお墨付きを手に入れた。
これで余計な掣肘がなくなる。
実権は無いが、それが逆に都合がよい。
与えられる使命や命令もないのだ。
今後も好き勝手やっていける。
「今後もはげみます」
具体的な内容については一切触れない。
また、誰のためにとも言わない。
少なくとも忠勤という王族などに仕えて勤めるといった言葉はない。
そこにトモルの意思があった。
王族の方もそんな事は承知である。
「うむ」
と頷いてトモルの返事を容認する。
それでもほんの少しだけ釘をさすために、
「今後も活躍に期待するぞ」
と述べておく。
好き勝手するのはかまわん。
だが、悪さだけはするな、他に迷惑はかけるなよ。
……おおむねそんな意味を含ませて。
そんな無言のやりとりを交わして儀式は終わる。
これで晴れてトモルは名誉職持ちとなった。




