295回目 縁故入社はこれが最初になるだろうか 7
「ただ、神社で仕事をする前にやってもらう事がある。
話は聞いてるだろうけど」
「はい。
覚悟はしてます」
「それなら、暫くはモンスターを相手に戦ってもらう」
これはトモルが先に提示していた条件である。
モンスターを相手にレベルをあげてもらう。
そして技術を身につけてもらう。
他の者にもやらせている人材育成方法だ。
本来ならばこういった危険な作業をさせない方が良いだろう。
研修やら実地の学習で様々な事を身につけてもらった方が無難である。
だが、そんな事をしてる余裕がトモルの所にはない。
使える人間がすぐにでも必要だった。
この状況、いまだにおさまる事がない。
大規模な拡大に伴って、人材が常に必要という状態が続いている。
なので、比較的短期間で人材が育成出来るモンスター退治に新人を送り込んでいた。
そうやって、通常なら三年かかっておぼえる仕事を一年以内に身につけてもらっている。
「俺も付き添うからそんなに緊張しないで大丈夫だと思う。
冒険者も同行させるから」
保険としてこういった措置はしている。
さすがに新人だけで放り込むというような事はしない。
可能な限り一緒にいるようにもしている。
だが、それでも安全だとは言えない。
「それでも、自分がやる事はしっかりやってもらいたい」
こればかりは絶対に譲れない一線だった。
戦うにしろ、安全な所で待機してるにせよ、自分の事は自分で守ってもらわねばならない。
「そういった動き方も最初に学んでもらう」
「分かりました、全力でやります」
ケイも異存はない。
もとよりそのつもりで来てるのだ。
文句があるはずもなかった。
「それと、あとで顔を合わせてもらいたい奴がいる。
うちに入った新人だ。
暫くは一緒に行動してもらう事になる」
「分かりました。
いつ頃になりますか?」
「とりあえず向こうに着いてからかな。
もうモンスター退治の為に現地に向かっているから」
ナオの事である。
ついでだからここで二人を会わせておこうと思った。
「分かりました。
引き合わせはお願いしますね」
「ああ、大丈夫だ。
仲良くやれるならそうしてくれ」
「良い人ならばいいんですが。
どういった方なんですか?」
「武家の出で、お前と同じ年頃の女だ」
「そうですか。
少し楽しみです」
同じ境遇の者がもう一人いる事に、少なからぬ安心をおぼえる。
知らない者と接する事への緊張もあるが。
だが自分が一人ではない事に胸をなでおろす。
「とりあえず今日はここに泊まって、明日現地に向かう。
その時に会わせるよ」
「お願いしますね」
「それとあとは……」
「なんでしょう?」
「動きやすい服装になってもらわないとな」
そう言ってケイを見つめる。
「さすがにスカートってわけにはいかないから」
「それもそうですね」
「適当なものを見繕っておくよ」
そのあたりはサエやサナエの領分である。
「……ついでにうちの女房とも会ってくれ。
紹介するから」
「それは是非」
もとよりそのつもりだったが、ついでの用件も出来た。
これで接点が増えて親交が少しでも深まればとも思った。
仲良くとまでいかないまでも、当たり障りのない対応が出来る程度には。
もっとも、女同士の関係というのは男には分からない複雑怪奇なものがある。
そう上手くいくかどうかは分からない。
(祈るしかないな、こういうのは)
天に全てを預ける心境である。
それくらい何がどうなるか分からないものがあった。




