294回目 縁故入社はこれが最初になるだろうか 6
そんな縁故入社であるが、ナオで終わりというわけではない。
もう一件、トモルの所に相談が来ている。
こちらは柊家の方からだ。
一族を伝って打診が来ている。
面倒ではあるが話だけは聞いておく事にした。
即座に却下するほど軋轢があるわけでもない。
特別仲良くするつもりもないし、これをもとにたかってきたら即座に切り捨てるつもりではあるが。
しかし、現段階で特に問題はないので相手をするつもりではいた。
何よりトモルも知らない相手ではない。
「久しぶりです、トモル様」
そう言ってやってきたのはトモルよりも年下の女の子であった。
と言っても、もう15歳にはなる。
ナオと同じくらいだ。
「久しぶりだな。
学校は卒業したんだっけ」
「はい」
トモルと同じく末端ではあるが貴族の娘だ。
学校に通い、このほど卒業した。
「もうそんな年齢になるのか」
久しぶりに会う娘を見て、年寄りじみた感想を抱いてしまう。
「卒業おめでとう、ケイ」
「ありがとうございます」
そう言って相手は頭を下げた。
柊ケイ。
トモルと同じ柊の一族である。
比較的近い所に住んでるので、多少は面識があった。
夏の帰省時期などで一族が集まる時などで顔を合わせてはいた。
年齢が近いのもあって、多少の付き合いもあった。
全く知らない人間というわけではない。
だから働く先の打診も来たのだろう。
もっとも、年頃の娘が送り込まれてる理由はそれだけではないだろうが。
(分かりやすいというか)
胸の中で苦笑する。
年頃の娘をわざわざ送り込んでくる理由など決まってる。
あわよくば娶られるよう願っての事だろう。
なにせケイには婚約者がいない。
この年頃の貴族の娘ならば焦って当然である。
本人はともかく親や一族としては色々と困ってしまう。
下手すると嫁き遅れになり、貰い手が無くなってしまう。
それを回避する為に年齢の近いトモルの所に送り込んできた、というのが真相だと睨んでいた。
出来ればトモルとくっついてもらおうと。
そうでなくても、トモルの所で働いてる他の貴族子弟と関係が出来ればとは思ってるはずだった。
どうしてもそこに思惑や打算を感じてしまう。
(仕方ないのは分かってるけど)
幸いなのはそこに悪意がない事だろう。
利用しようとしてるのは変わらないかもしれない。
しかしそれは、藁にもすがる思いというもののはず。
トモルを蔑ろにしようというのではない。
それも分かるので邪険にするつもりはなかった。
「話は聞いてるから。
一応、新しく出来る神社でお務めという事になる」
「ええ、そう聞いてます。
どうかよろしくお願いします」
「こちらこそ頼むよ。
何せ、新しく始める事だから。
色々と大変になると思う」
これについては本心からそう思っていた。
なにせ立ち上げから始まるのだ。
何であれ最初に作り上げるというのは大変な労力になる。
「脅すわけじゃないけど、それを踏まえて頑張ってもらいたい」
「微力を尽くします」
「頼む。
本当なら行儀見習いという形にしたかったけど」
貴族の女子が仕事に就く場合の理由である。
仕事を通じて様々な事を学び、嫁入りに備える。
これが貴族の通例ではある。
もちろん仕事はしてもらうが、大規模な社会見学という意味合いもある。
また、職場で男を見つけるという側面もあった。
なのだが、新規立ち上げの神社であるので、そんな余裕もないだろう。
トモルとしても男女区別なく新規事業の立ち上げのつもりで頑張ってもらいたかった。
その中で相手が見つかるならばおめでたいとも考えてはいたが。
また、もう少し俗な下心もある。
(あとは神社の顔になってくれれば良いんだけど)
広報というか宣伝というか。
看板になってくれればと思ってもいる。
新しく始めるにあたって、注目は集めたい。
人々に知られたものにするために。
そうなると実務や実利的な意味の他に、見た目に訴えるものも必要だ。
文字通りに顔を売る必要もある。
そういう観点からもケイは貴重な人材であった。
(綺麗になったからなあ)
お世辞や親戚のひいき目を抜きにしてそう思う。
ケイは見目麗しく成長してくれていた。
どちらかと言えば、美人というより可愛らしいという方向で。
それだけが必要というわけではないが、そういった人材がいてくれるのは助かる。
(あとは勤務態度だな)
実直に仕事にはげんでもらいたい。
見た目の良い看板としても期待してるが、それだけでは困る。
最後に物を言うのは、真面目にやっているかどうかだ。
人はそこにも目を向ける。
そこが駄目だと人は離れていく。
そうならないよう、また神社が機能する為にも仕事は真摯にこなしてもらいたかった。




