291回目 縁故入社はこれが最初になるだろうか 3
背筋の伸びた娘だった。
武家らしく鍛えてるのだろう。
振る舞いも貴族の婦女というより武人のものだ。
かといってガサツというわけではない。
礼儀正しさが見て取れる。
整った顔立ちと相まって、目を引くものがある。
だが、そういった興味はとりあえずしまっておく。
今はそれよりも先に片付けておくべき事がある。
「それで、うちで働くって事だけど。
とりあえず腕を見てみたい。
でないと話にならないから」
今後の待遇について語っていく。
まず、能力がどれくらいなのか分からないといけない。
冒険者のように能力値表示をさせれば良いことだが、それだけでは足りない。
持ってる能力をどれだけ使えるのかも示してもらわねばならない。
いくら優れた能力や技術を持っていても、それをしっかり使えるとは限らないのだ。
これについてナオは即座に頷いた。
「もちろんです。
私の腕で仕官がかなうとは思っていません」
「なるほど」
良い返事だった。
腕をひけらかす事無く、自分の腕を過信しない。
そういった態度を示してくれるのはありがたい。
口先だけでなければだが。
そこは今後実際に見て調べねばならない事だろう。
だが、当面は問題無い。
「そう言ってくれると助かる。
とりあえず冒険者として活動してもらいたい。
そこで腕をあげてくれれば仕官も考える。
うちにも女の護衛は必要になってくるから」
これがトモルの出す条件だった。
腕を試すために冒険者として行動してもらう。
そこでどれだけ動けるかを見ていく。
こうでもしないと実力を把握する事は出来ない。
何よりも、性格などはこういった形でしか見いだせないものがある。
能力や技術と違い、性格や性質といったものは容易にはかれない。
はっきりと表示される事がないからだ。
こればかりは実際に接してみて窺うしかない。
そこで見受けられる様々な態度をみて判断を下すのだ。
ここが難しいところである。
どれだけ能力や技術が優れていても、性格に難があるとどうしようもない。
成果を誤魔化して懐に入れたり、仲間への態度が悪いといった輩などは悪い影響を及ぼす。
これらは集団全体の効率を落としていくからだ。
どれ程能力が高くてもこういった問題がある者は置いておくわけにはいかない。
例え人の二倍三倍優秀だとしても、他の者のやる気を削いで効率を二割三割落としてしまうからだ。
こうなると秀でた能力が他の者によって相殺されてしまう。
また、悪影響とはかなり広範囲にひろがる。
たった一人の人間の為に全体の効率が落ちてしまう事など珍しくもない。
このため、単に能力が高いというだけでは何の意味もない。
それくらいならば、多少能力が劣っていても、誠実に仕事をしてくれる人間がいてくれた方がよい。
この点、ナオがどういった人間かは全く分からない。
なので、まずはここを見定めるのが先だった。
「それじゃ、明日あたりにでも現地に行こう。
そこで他の者と合流してもらう。
とりあえずは新人達と一緒に行動してもらう事になるだろう」
「分かりました。
足手まといにならないよう気をつけます」
「そうしてくれ。
ただ、モンスターを相手にする前に訓練所に入ってもらう。
そこでやり方とかは分かるはずだ。
まずは動き方をおぼえてくれ」
「訓練所……ですか?」
「そうだ」
怪訝そうな声にトモルは頷く。
「モンスターとの戦い方なんかを教えてるところだ。
そこで大まかにでもやり方を知ってくれ」
「分かりました。
しかし…………訓練所というのは?」
とりあえず言いつけは受け入れたナオだが、初めて聞く施設に疑問を抱いた。




