281回目 帰るべき我が家 2
とはいえ、全く接点が無いのもそれはそれで困る。
なので、トモルがいる時、とりあえず夕食の時間だけは一緒にいる事にした。
朝食だけでも良い。
トモルがいる所で、とりあえず接点を作っておく事にした。
トモルの目の届く範囲に物事を置く事が出来る。
問題が発生したとしても、とりあえず取りなすことくらいは出来るだろう。
根本的な解決は出来なくてもだ。
何より、二人の顔を見ておきたいというのもあった。
ありがたい事に、今のところ二人の仲はそれ程悪くはない。
良いかどうかは分からないが、衝突や摩擦は発生してない。
トモルの見てる前だけでの事かもしれないが、そういう風に感じられる。
それだけでもありがたかった。
おかげで家の中ではくつろいでいられる。
そんな二人と一緒に食事をしている。
不思議なもので、それだけで気分が解れていく。
「……いいなあ」
そう呟くのが最近の日課になっていた。
「何言ってるんです」
「そうですよ」
一緒にいる二人も笑みを浮かべてくる。
たったそれだけで、結婚して良かったと思えた。
食事が終わって腹が膨れると、やる事がなくなる。
仕事から解放されて落ち着ける瞬間だ。
そうなってからトモルはサナエから今日一日の事を聞いていく。
家の方で何があったのかを確かめていく。
監視するわけではないが、状況は確認しておきたかった。
自分のいない間の出来事に興味もある。
サナエもこの時間を楽しみにしているようでもあった。
彼女も彼女で、トモルと接点があるのが楽しいようである。
ただ、話の内容がどうしても事務的というか報告のようなものになってしまう。
学校にいる時に女子側での出来事を尋ねていた時と同じ調子だ。
どうにも夫婦らしくないなと思ってしまう。
どこか事務的で、仕事をしてるように思える。
こんなんで良いのかと考えてしまう。
ただ、サナエはそうでもないらしい。
「いいじゃないですか、そんな事」
と笑みを浮かべていく。
「私たちにとってこれがいつもの事だったんですから」
「そりゃまあ、そうだけど」
確かに学校ではこうしていた。
何があったのか報告し、対策を考えていく。
そんな事をずっとやってきた。
そういう事に慣れてしまってるのだろう。
はたして、これが良いのかと思ってしまう。
だがそれなりに長い時間をかけて出来上がった関係だ。
そう簡単に変わったりはしないのだろう。
「それに、いきなり変わるのも難しいですし。
まずはこういう所から色々積み重ねていきましょう」
それもそうだなと思った。
「これからずっと一緒なんですから」
「そうだったな」
言われてあらためて思い出す。
自分達はもう夫婦になったのだと。
そんなサナエとのやりとりが終わると、後片付けを終えたサエがやってくる。
「それでは」
とサナエは一旦その場から離れる。
特に何をするというわけではないが、少し離れたところで編み物などを始める。
トモルとサエの話を邪魔しない為だ。
自分は先にお話を済ませたから、サエもトモルと一緒にお喋りをしなさいよ、という事である。
「私だけ時間を割いてもらうわけにもいきませんから」
とはサナエの弁である。
彼女なりに気を利かせてるらしい。
「余計な事で揉める理由を作りたくありませんから」
色々とわきまえた事を言ってくる。
それも貴族のたしなみであるようだった。
分をわきまえ変に出しゃばらないこと。
でないと面倒な騒動に巻き込まれる。
下手すると自分が原因になる。
そうならない為の処世術だ。
「場合によっては第二夫人や第三夫人になる事もありますから」
そうなった場合の対処法らしい。
他の女房達と変なしこりを作らない為の。
さすが貴族と言うべきか。
ただ、それも理由ではあるのだろうが、サナエもこれを楽しんでいた。
トモルとサエがお喋りをしてる間にしてる編み物や刺繍はサナエの趣味だ。
他にする事もないというのもあるだろうが、こうやって自分の時間を確保してるようでもある。
(しっかりしてるよ)
分をわきまえ、しかし譲るだけではない。
好きな事をやる時間を確保する為にも使ってる。
もしかしてそうなのか、と尋ねた事があるが、
「あら、分かります?」
と平然と言ってのけてきた。
これにはトモルも苦笑するしかない。
なかなかの図太さだ。
「学校であなたに鍛えられましたから」
そう言われたら何も言い返せなかった。
「頼もしい女房だよ」
「でないと、あなたの妻はつとまりそうもないですから」
もう苦笑するしかなかった。




