275回目 対抗出来る体制と体勢作り 2
人が集まると同時に、別の方面での人集めも必要になっていく。
統治機構側の人材だ。
トモルの下で働く者が絶対に必要になっていく。
人が増え、統治領域が拡大するにつれて必要性も増大していく。
これに対応する為に、トモルは学校を通じてあちこちの貴族に話をもちかけていった。
トモルの通っていた貴族の学校は、既にトモルの支配下と言ってもよい。
敵対勢力の貴族子弟を排除し、同胞と言える仲間を確保する為の機関である。
それだけトモルの影響力は強い。
非公式にトモルの息のかかった人間を常駐させて監視を続けるようにもしている。
再び学校内で不当な行いがなされないようにするためでもある。
そのついでに人材の草刈り場としても用いていた。
貴族の冷や飯食らいも多い。
その解消が出来るとあれば喜ばない者はいない。
是非にも、と頼み込んでくる者もいる。
そういった者達を引き込んで役所や代官などとして用いていく。
これによって人手不足への対処を行なっていった。
もちろん、条件はつけていく。
子弟を引き受けるかわりに、トモルの勢力に加わる事。
これが冷や飯食らいの部屋住みを引き受ける条件だった。
同時にそれは、今まで所属していた勢力との絶縁も意味していた。
トモルはどちらにも好を繋いでおくという事を決して許しはしなかった。
そんなものは消極的な敵対でしかない。
どこでどのように情報が流れるか分かったものではないのだから。
このため、子弟の就職を考える貴族家は選択を迫られる事になった。
末子の就職のために、今までの地位を捨てるのかと。
あまりにも馬鹿げた要求である。
片や勢力を伸ばしてるとはいえ、地方の末端貴族。
もう一方は国そのものと言ってよい大勢力である。
天秤にかける事もおこがましいというものである。
通常なら、一蹴するような要求である。
なのだが。
トモルが行なってきた一連の行動が一蹴するのを踏みとどまらせる。
短期間で教会と貴族勢力を駆逐した強力さだ。
それが出来るだけの強さを持っている。
だから教会も僧兵をぶつけて対抗する事を渋っている。
政府も然り。
本来なら地方の反乱として即座に鎮圧に動いている。
そうするのが当然なほど、トモルの行いは常軌を逸していた。
しかし、それらしい動きはほとんどない。
それもまた当然である。
一瞬にして都市(門前町)一つを壊滅させたのだ。
そんな事が可能な強力な兵が揃ってる所に喧嘩を売るわけにはいかない。
たとえ政府であったとしてもだ。
そんな事が出来る集団を鎮圧しようと思ったら、何万という大軍を動員しなくてはならない。
やろうと思えば出来るが、さすがに政府にとっても負担になる。
対応に二の足を踏むのも仕方が無い。
やらねばならぬと分かっていてもだ。
それが貴族達の悩みどころにもなっていた。
政府から離反してトモルの下につくのは馬鹿げてる。
だが、トモルの強さがあればあるいは……という考えも出てくる。
どちらの方が有利であるのかを考えると悩ましいものがあった。
何より、自分の家で抱える部屋住みの子弟の問題もある。
無駄飯くらいとまではいかなくても、収入の無い者を抱える負担は無視出来ない。
それが無くなれば生活も多少は楽になる。
貴族であってもこれは無視出来ないものがあった。
特に末端にいる下位貴族ならば。
そのあたりだと平民庶民とたいして変わらない生活ぶりだ。
収入もそれほど大きな違いは無い。
そんな家が部屋住みを抱えるのはかなりの負担である。
それから解放されるならばと思う者は多い。
結局、それを理由にトモルの下につく者も多かった。
大義や理想、義務よりも目先の生活である。
武士は食わねど高楊枝、というような考えはこの世界にもある。
だが、そんなやせ我慢が長続きするわけもない。
理想に殉じて死んでいく者は、いつの時代どんな場所であっても極めて少数だ。
大半は現実を見て身の振り方を考えていく。
それが普通である。
悪い事では何一つ無い。
こうしてトモルの下で働く者は増えていく。
トモルの方に鞍替えした者達も。
こうしてトモルは勢力を比較的穏便に拡大していった。




