26回目 冒険者たち2
「こっちの方はそんなにモンスターはいないよ」
追いついた冒険者達にトモルは声をかける。
「稼ぐなら、あっちの方がいいよ。
数が多いから結構大変だけど」
そう言うトモルに冒険者達は驚いた顔を向ける。
「おまえ、領主のところの」
「うん、領主の子供だよ。
勝手に道案内しに来たから」
そう宣言するトモルに冒険者達は、呆れるやら困惑するやらとなった。
「あー、坊主……」
「トモルだよ」
「そうか、じゃあトモル。
確かに案内があると嬉しいけど、さすがに子供じゃちょっとな」
「危ないから早く帰ってくれ。
気持ちはありがたいけど」
当然の気遣いを見せる冒険者達。
それもそうだろう、彼らが言うとおりに子供であるし、何より領主の子供だ。
連れていったのがばれたらどんな事になるか分からない。
そもそも道案内と言ってもどれほどこの周辺を知ってるのか分からない。
そんなトモルをつれていく事はあまりにも問題が大きかった。
もし何かあったら、冒険者達の責任になってしまう。
だが、これで引き下がるほどトモルは聞き分けが良いわけではない。
「ここまで俺は一人でやってこれたよ。
皆の居場所を突き止めてね」
まず、事実を並べていく事にする。
「それだけの能力があるのは認めてくれるよね?
そして、さっきも言ったけど、モンスターがいる場所も知ってる。
あっちって言ったのは嘘でも何でもないよ」
「そりゃあ……」
「もちろんこの近くの全部を知ってるとは言わない。
でも、幾つかの場所には心当たりがある。
だからそこまでは案内が出来る。
今、必要なのはそれだと思うけど」
「けどな、いくら何でも子供にさせるわけにはいかないって」
別の者が口を挟んでくる。
何とか説得しようとしてるのだろう。
他の者も同じようであった。
勢いにのまれそうになる。
それらを何とか押しのけてトモルは口を開いていく。
「でも、稼ぎがないと困るでしょ。
これだけの人数がいるんだし」
そう言ってトモルは冒険者達を見渡す。
彼らは総勢6人。
これだけの人数を維持してくためにはそれだけの稼ぎが必要になる。
当然ながら、それなりにモンスターを倒していかねばならない。
「モンスターがいっぱいいる場所には幾つか目星が付いてるから。
そこに案内するつもりなんだけど。
いらないの?」
そう言って相手の反応を待つ。
彼らとてそういった情報は欲しいはずである。
その交換条件としてトモルの出す条件をのむかどうか。
そこが問題であった。
「連れていってくれないなら、その場所は教えない」
念押しの為にそう付け加える。
冒険者達は難しい顔をした。
しかし、幾らか考えたところで決断を下す。
「分かった、場所を教えてくれ」
交渉は成立した。
この近隣を歩き回ってるうちに、モンスターが集まってる場所を幾つか見つけていった。
比較的狭い場所に多くのモンスターが集っているので、一気に叩く事が出来れば稼ぎは大きい。
だが、危険も当然ながら大きく、トモル一人では手が出せなかった。
そういう場所の一つをトモルは冒険者達に案内していく。
この冒険者達の腕がどれくらいなのか分からないが、そこそこに出来るなら問題はない。
6人もいれば多少モンスターの数が多くてもどうにかなる。
もちろんやり方次第なので、下手すればこちらが壊滅する可能性もあった。
(まあ、さすがにそれはないだろうけど)
冒険者としての技量がどのくらいかは分からないが、それなりの腕でなければ生き残ってはいけない。
彼らが多少なりとも場数を踏んでるならば、これからつれていく所のモンスター程度はどうにかなるはずだった。
「あそこだよ」
そういって示すのは、少しばかりくぼんだ場所だった。
そこにモンスターのバッタがひしめくように集っている。
生えていたであろう草木などは食い荒らされたのか、全く存在しない。
おかげでどれくらいのバッタがいるのかがはっきりと分かる。
「おい、かなりいっぱいいるじゃないか」
「そうだね」
言われるまでもなかった。
数にして100はくだらないほどいるだろう。
だからトモルも手を出せずにいた。
だが、今なら問題は無い。
「上手くやればあれくらいは一気にいけると思うよ。
6人もいるんだし」
「いや、無理だろ、どう考えても」
冒険者の頭目は比較的頭が回るようだった。
彼我の戦力差をしっかりと理解している。
それを踏まえた慎重さを持ってるようだった。
確かに普通にやるなら、これだけの数のモンスターを相手にするのは不可能である。
最弱に分類されるモンスターのバッタであるが、数が集まれば手間と面倒がかかる難敵になる。
目の前に屯するのは、まさにそんな連中だった。
「あんなの相手にしてられないぞ」
「群れから抜けてきた連中を倒すならともかく」
実際に目の前にあるものを見て、冒険者達は冷静な考えを示していく。
確かに倒せばそれなりの成果をあげる事は出来るだろうが、危険が大きすぎる。
だが、トモルはそれほど悲観的にもならずに考えを述べていく。
「やり方は考えてるよ」
そう言って冒険者達に手順を説明していく。
「なるほど……」
話を聞き終えた冒険者達は納得をしたようだった。
「それが本当なら、上手くいくだろうな」
「多分ね。
あとは運任せだけど」
「だが、目はある。
やるだけやってみよう」
そう言って冒険者の方は覚悟を決めていく。
「じゃあ、いくよ」
トモルは声をかけていく。
この作戦、トモルの使う魔術が要になる。
その支援なくして成り立たない話だった。
少しばかり見せたそれを冒険者も頼りにしている。
彼らにとっても、魔術を用いた戦闘はこれが初めてなので、手探りな所はある。
だが、それでも目の前のモンスターの大群を倒すための切り札として、トモルに賭けてみようと思ってくれた。
冒険者といえども魔術師はそう多くはない。
というより冒険者になりたがる魔術師など皆無に等しい。
レベルアップなどの為に冒険に出る者はいるが、それは本当に少数である。
村にきた彼らにも当然ながら魔術を用いる事が出来るものはいなかった。
だからこそ慎重になっていたのもある。
しかし、トモルが魔術を使える事、それがそれなりに使えるらしい事を見て、考えをかえた。
上手くすれば、大量のモンスターを倒して数多くの核を手に入れる事が出来る。
その可能性に賭ける事にした。
彼らとて欲はある。
稼げる可能性があるなら、その可能性に賭けてみたかった。
そんな欲もなければ、冒険者を続けていく事も難しい。
危険に手を出さない慎重さと、可能であるならば挑戦する度胸の両方が必要な仕事なのだ。
今の状況はまさに後者であると言えた。
(まあ、やってみるか)
そう腹をくくる。
どうせ死ぬのも織り込み済みの商売なのだからと割り切って。
(とはいえ、子供にすがる事になるのはなあ……)
それだけは忸怩たるものがある。
苦笑するしかなかった。




