254回目 教会が無いなら、代わりを作れば良いじゃない 6
「信仰を否定した邪教の徒に鉄槌を!」
追い込まれた教会が放った言葉である。
これに呼応して、各地の熱烈(かなり穏便な表現である)な信者が行動を起こしていく。
教会に疑念を抱く者達を取り囲んでの暴行。
該当する者達の家に押し入っての強盗。
商店や工房への破壊活動。
これらがそこかしこで起こるようになった。
これらに対しては、貴族も見て見ぬふりを決め込んだ。
教会と繋がりのある者達からすれば、そうやって不穏分子を潰した方が得である。
止める理由はない。
それを行うのが民衆であるのもありがたかった。
貴重な手勢を繰り出す必要がないのだから。
これにより、教会への疑念、ひいては貴族への不審を抱く者達が排斥されるようになった。
町や村から追い出されるというような生やさしいものではない。
殺人、強姦、強奪などを伴う破壊行為である。
もはやそれは犯罪の範疇に留まるようなものではない。
明確な意志によって動く、戦争に近いものがあった。
これらはトモルと接点のある領主の所でも起こるようになった。
初期の段階で教会関係者を根こそぎ滅亡させたトモルの所では被害は無かったが。
それ以外の領主の所では、押し寄せてきた教会の信徒による攻撃が相次いだ。
これをどうにか押しとどめようとした領主達であるが、それも不可能であった。
何せ数が違う。
大多数を占める末端の領主の抱える手勢はせいぜい数人。
中にはそれすらままならないような者達もいる。
そんな所に少なくとも数十人の信徒が押し寄せるのである。
所によって数百人という規模の場合もあった。
また、領内に教会に与する者もいる。
下手すると領主の家族や配下の中に、教会に賛同する者がいるのだ。
こんな状態では、押し寄せる信徒に対抗する事など出来るわけがない。
領主の指示や命令より、教会への帰属意識が優先するのだ。
内部分裂を引き起こすのは言うまでもなかった。
各地の領主はそうして信徒に蹂躙されていく事になる。
各地の領主は、やむなく逃げ出す羽目になる。
領主だけではない、領民ですら信徒から逃げていく。
信徒が攻撃の対象としてるのは、教会に反発する者達。
疑念を抱く事すら攻撃対象である。
該当する者は数多くいた。
暴露された教会のしてきた事を聞いて疑念を抱かぬ者はいない。
大なり小なり教会のやってきた事に警戒や反発を抱いている。
信徒からすれば、それは許し難い暴虐である。
攻撃対象にするには充分であった。
こうした行動により、教会に反発する者達は迂闊に動けなくなった。
内心でどう思ってようと、下手にそれを表に出したら攻撃される。
そんな恐怖で動きがとれなくなった。
表面的に教会(ひいては貴族)が再び主導権を握ったようにも見られた。
しかし、それは決して物事の解決に結びついたわけではない。
内心での反発はより大きくなっていく。
それはきっかけさえあればすぐに爆発する。
「良い傾向だ」
トモルからすればありがたい話であった。
攻め込むきっかけが出来る。
『虐げられた者達を救う』
という大義名分が手に入る。
民衆を扇動するにはどうしても必要なものだ。
それが出来上がってくれてありがたい。
早速トモルは、配下の者達に出撃の準備をとらせていった。




