248回目 考えるのをやめて、思うがままに生きる事にする 6
厳しい対応をしてるが評判は悪くない。
それが分かっただけでも収穫だった。
悪さの取り締まりは今後もこの調子でやっていく事にした。
その為、内部にいる教会の同調者には厳しくあたる事になった。
当然ながら、それはエリカにも及んでいく。
「──というわけだから」
呼び出したエリカの父に説明をしていく。
エリカが教会にて懺悔をしていた事。
様々な事を口にしていた事。
その中には、トモルに関わる事も含まれていた事。
それを基に教会がトモルに圧力をかけようとしていた事。
押収した資料からそれらが判明し、さすがに追及せざるをえなくなった。
エリカの処罰は免れない。
ここで温情をかけたりしたら、他への示しがつかない。
公平な裁きでなくなる。
それはとうてい出来る事ではなかった。
情状酌量の余地があれば良いのだろうが、そんなものも無い。
内部情報、機密の漏洩は重罪。
しかも、それを基にして圧力をかけるつもりでいた連中がいる。
それが判明してるのだ。
何らかの処分は免れない。
逆に、これを放置するなら、機密保持などが揺らいでしまう。
「悪いけど、エリカには相応の対応をとる」
そう言うしかなかった。
話を聞くエリカの父はため息を漏らすしかなかった。
父親としてはどうにかして娘を助けたいと思う。
しかし、それが叶わぬ事という事も充分に理解出来ている。
エリカの父も行商人として生きてきた中で、機密や内部情報の重要性を体感的に理解している。
それが外部に漏れた場合に発生しうる損失というのも。
だからトモルの決定に異を唱える事が出来なかった。
それでも、
「どうにかならないでしょうか……」
と口にしてしまうのが人情である。
どうにもならないと分かっていても。
返ってくる答えが、
「無理だ」
という絶望的なものだと分かっていてもだ。
「教会の神官を捕らえて処分した。
それを擁護した連中もだ。
ここで例外を作るわけにはいかない。
そうしなければならない理由が無い限りは」
「……でしょうね」
「出来る事と言ったら、せめて苦しまずに死なせるくらいだ」
「…………」
やはりそうなるか、と思った。
実際、それ以外にどうしようもないのだろう。
「ただ、あなたにまで累が及ぶ事は無い。
それだけは保証する」
「……はい」
それがせめてもの温情だろうか。
この世界、一人が犯した罪により、一族郎党が処分を受ける事もある。
関与がはっきりしていたらそれはほぼ確実だ。
親子の場合、子供への教育不足、あるいは間違った事を教えたという事で罪になる可能性もある。
また、そうでなくても見せしめのために連座で処罰の対象になる事もある。
それがないだけでも良い方ではあるだろう。
「今後もここで商売がしたいなら構わない。
もちろん、こんな所から出ていきたいというなら、それも止めはしない」
「そうですか」
それはエリカの父にとってありがたい事ではあった。
既に仕事の基盤はトモルの領内にある。
そこから追い出されないのは助かる。
ただ、心情的に納得出来ないものもあるにはある。
さすがに娘が処刑されるのだ。
気分が良いわけではない。
評判も悪くなるだろう。
商売に差し障りが出る可能性はあった。
しかし、それにも、
「商売がしにくくなるなら、俺の御用商人として頑張ってもらいたいとも思う。
あなたには子供の頃からお世話になってるし。
出来れば今後もそうであってもらいたい」
と申し出てくれる。
エリカの父は、それを聞いて決断をくだした。
親ではなく行商人として、色々なものに踏ん切りをつける事にした。
背に腹は代えられない。
後日、エリカの処刑が執行された。
せめてもの情けとして、苦しまずにあの世に送った。
亡骸こそ他の処罰対象と同様、モンスターの餌になり、墓も作れなかったが。
刑の執行なのだから、これだけはさすがに覆す事は出来なかった。
ただ、関与が無かった事で家族はお咎めなし。
仕事も続けて問題無い、という処遇が周りにも影響を与えた。
処罰は問題を起こした当事者のみ。
関連性がなければ刑罰の対象にならない。
その事が安心感となって人々の中に広まっていく。
必ずしも一族連座となるわけではないと分かったからだ。
また、問題がなければ生活や仕事もこれまで通りに行えるというのも大きい。
これらが、
『厳しくはあるが、普通に暮らしていれば問題は無い』
という事を再確認させていく。
とはいえ、処罰された者の家族への周囲からの評価や評判というものまでは覆せない。
罪人を出した一族、という風に見られる事にもなる。
それでも、統治者や法律などにより、刑罰の対象が極端に広くなる事は無い。
それはこの世界においては画期的な事だった。
少なくとも、人々の行動や考えに余裕が出てくる。
多少の自由は生まれる。
それがトモルの領内に残る事を決断する要素になってもいった。
何はともあれ、教会による工作はこれで潰える事になった。
他の所ではともかく、トモルの領域内においては、教会は以降近寄る事すらなくなった。
やってくれば例外なく死刑になるからだ。
「工作活動をするような連中はいらない」
というのがトモルの意向だった。
これに対して様々な圧力がかけられるが、その全てをトモルは無視した。
また、教会がどういったものかを忘れさせないように、風化させないように常にこの出来事を繰り返し宣伝した。
吟遊詩人や旅芸人を通じて、今回の出来事を何度も何度も繰り返して伝えていった。
おかげで教会の勢力はかなり減少していく事になる。
それと同時に、トモルはとらえた教会の神官や関係者から情報を聞き出していった。
拷問や魔術による精神操作も用いて、あらゆる情報を聞き出していく。
それにより、何が漏れていて、情報がどこに流れてるのかを把握していく。
予想通りそれは教会の総本山である大聖堂へと向かっていた。
そして、そこから更に有力貴族にも流れてると。
(まあ、そういう繋がりはあるだろうな)
統治者との連携は必要不可欠なのだろう。
教会はそうやって国の中枢にくらいこんでいる。
上位の貴族は、そうやって様々な情報を得てるのだろう。
癒着もはなはだしい。
トモルの情報も、もしかしたらそこまで流れてるかもしれない。
(しょうがないな……)
ならば、と考える。
どうせ知られてるなら、それなりに動いていくしかない。
どうせ最終的には色々やるつもりではあったのだ。
それが早まっただけとも言える。
知られた以上は、悠長にしているわけにもいかない。
(いっちょ、やってやるか)
あらためてトモルは腹をくくった。
邪魔になるものは全て倒すと。




