244回目 考えるのをやめて、思うがままに生きる事にする 2
警備の僧兵を叩きのめし、内部に侵入して神官も叩きのめした。
他にも下級の神官や用務員なども捕らえていく。
それから全員を捕らえて拘束していく。
抵抗が出来ない神官達は、礼拝堂の中に集められる。
一応、姿が見えるように灯りが少しばかり灯された中で。
そんな彼等をトモルは上から見下ろした。
「さて……」
手足を縛られて床に転がる神官達に声をかける。
感情が欠落したような抑揚のないものだった。
「聞きたい事があるから正直に答えろ。
言いたくないならそれでも構わないけど。
その場合、どうなるかは覚悟しておけ」
勧告に神官達が震え上がる。
しかし、それでも彼等は気丈にトモルを見つめる。
「こんな事をしてただで済むと思ってるのか?」
震える声で神官が声をあげた。
「神の家で、神の僕にこんな事をして……。
貴様には天罰が下ろうぞ」
「あ、そう」
言ってトモルは神官の腹につま先を叩きこむ。
軽い一撃だ。
しかし、衝撃で息を止めてしまうには充分な威力である。
それを見て、他の者達は震えあがった。
一撃でそこまでさせてしまう威力に。
そして、神官にそこまでしてしまえる横暴さに。
「あるならとっくに下ってるだろ、天罰が。
お前らがこんな目にあってるんだから。
なのに、なんで俺は無事でいる?」
その言葉にえずいてる神官以外の者達が震えた。
確かにその通りである。
天罰、神罰というものがあるなら、とっくに侵入者に下っているはずだ。
しかし、そんなものはまだ全く起こっていない。
「だいたい、天罰だって言うなら、俺がこんな風に教会に入ってこれるわけがないだろ。
入る前に天罰が下ってる」
その言葉に更に震え上がる。
全くもってその通りである。
もし本当に神の裁きがあるなら、教会に入る事すら出来ないはずである。
「それでも本当に神がいるなら、頑張って助けを求めろ。
困ってるお前らを助けもしない神様とやらにな」
冷淡な声が神官達に降り注ぐ。
「か、神は我らを見捨てない……」
それでも神官はトモルの言葉に反抗する。
「神は我らを救う。
修行の場であるこの世には介入はしてこないが。
しかし、死して後の世界で、我らを救いたまう」
教義にある言葉を神官は口にする。
その言葉に他の者達も気を持ち直す。
(そうだ……)
(そうだった……)
教会の教義では、神がこの世に介入する事はほとんどない。
希に起こる奇跡はあるが、それは本当に希なものだ。
普段はどんな事が起ころうとも何もしない。
ただ、修行の場であるこの世での働きを見ており、死後の世界にて報いを授ける。
行い正しければ、極楽と呼ばれる神の膝元で暮らす事が出来る。
その逆であれば、苦難と苦痛の世界である地獄で刑罰を受ける。
そういう教えだからこそ、この世において神の報いなどありえない。
「何が目的かしらないが、我らを虐げれば地獄の苦しみを味わう事になるぞ」
「だから?」
トモルは冷淡に応えた。
「で、あの世ってのが本当にあると思ってるのか?」
「当然だ!」
「どうやって調べるんだ?」
「神を疑うのか?」
「どうやって調べるんだ?」
「神はある!」
「どうやって調べるんだ?」
「不信心者に語る事などない!」
「あ、そう」
ドカッ、と音を立てて神官が蹴り飛ばされる。
壁まで吹き飛んで叩きつけられたその姿を見て、他の者達の顔から血の気が引いていく。
「が……あ……」
呼吸もろくに出来ないほどの衝撃を受けて、神官が床に落ちていく。
その様を見て、誰もが声を失った。
「調べてもいねえものを吹聴すんな。
そういうのを詐欺って言うんだよ」
嫌悪感たっぷりにトモルは言い放つ。
それを聞いた他の者達は震え上がる。
トモルの声に含まれてる憤りを感じて。
そして。
わずかながら彼等の心に疑念がわき起こる。
教会に所属してる彼等であるが、神の存在を感じた事は無い。
教義としてどういったものかは理解してるが、会った事があるわけではない。
また、死後の世界である神の国など当然行った事などない。
これまではそれが当然であると思っていた。
だが、トモルの言葉を聞いて思ってしまった。
『見た事もないのに、どうしてそれがあるって言えるんだ?』
言葉にすればそういう事になる。
そうはっきりと考えたわけではない。
胸に形にならない思いとして浮かんできただけである。
しかし、それは確かな疑念として彼等の胸の内から発生してきた。
神官が吹き飛ばされている事もそう思う一因になっている。
これほどまでの事をされても、まだ自分達に救いはもたらされないのか?
むろん、この世において救いがもたらされる事は無いと彼等は知っている。
しかし、だとしても希に起こるという奇跡があっても良いのではないかとも。
それらが起こる気配もなく、いまだに乱暴狼藉を働く侵入者は何事もない。
こんな事があって良いのか、と思ってしまう。
それも、死後の幸福を思えば堪えられるものではあるのだろう。
だが、神官の受けている苦痛を見るとそんな気持ちも無くなっていく。
『あそこまでされても堪えねばならないのか?』
疑問が更に大きくなっていく。
少なくとも彼等は、壁に叩きつけられるほどの苦痛を受け入れたくはなかった。
「まあ、神様にすがりたいならそうさせてやるよ」
苦痛にうめく神官と、青ざめている他の者達にトモルは声をかける。
「この世じゃ楽になれないらしいし。
直接あの世に行って神様に助けてもらえ」
その言葉に神官を含めた一同が動きを止める。
体だけではない。
思考も一瞬止まった。
トモルの言っている言葉の意味が理解出来なかったのだ。
また、理解する事を拒否してもいた。
それはあまりにも恐ろしい事なのだから。
なのだが、トモルはそんな彼等の気持ちを慮る事無く、やる事を告げていく。
「確か、苦難を背負った分だけ神様は見返りを寄越してくれるんだよな?
だったら、出来るだけ悲惨な目にあわせてやるよ。
それから神様のいるあの世に送ってやる」
そう言ってトモルは、一番近くに倒れていた僧兵を持ち上げる。
片手で持ち上げられてそいつは、握られた部分から走る痛みに顔をしかめた。
しかし、悲鳴はあげられなかった。
そうなる前にトモルが腹に蹴りを撃ち込んだのだ。
呼吸すらも止まる重い一撃である。
苦痛に顔がゆがみ、体がねじ曲がる。
そんな彼と他の者達に、トモルはこれからやる事を宣言した。
「たっぷり苦しんでから、死ね」




