241回目 どんな言い訳をしようと問題から目を背けるのが悪い
(これでどうにかなったかな)
サエの家族も承諾した事で、目先の問題がまた一つ解消された。
慕ってくれる女の子を手放さずに済む。
そういった個人的な願望を叶える事が出来た。
それだけではない。
サエの家族を中心として進出先を開発出来れば、間接的な支配も可能となる。
損得勘定や打算まみれの考えではあるが、それもあり得る出来事である。
また、そういう立場でないと、サエを娶るにあたり文句を言う輩も出てくる。
(そういうのは叩きのめせばいいんだけど)
何も変に遠慮をする必要は無い。
文句があるなら、それこそ徹底的に叩きのめせば良い。
今までそうやってきたように。
ただ、それをやるのは面倒なので、穏便に解決出来るならそれにこした事はなかった。
現在のところ、思惑通りになっている。
変に敵対する奴はおらず、味方が少しずつだが増えている。
手足として使える兵隊も、冒険者という形で確保している。
問題も色々あるかもしれないが、現状では利益の方が大きい。
(このまま上手くいけばいいけど)
そう思わずにはいられない。
ただ、全てが上手くいってるとは思わない。
そこまで自信過剰ではない。
どれ程緻密に物事を進めていても、何かしら漏れは発生する。
それがどこでどのように生まれてるのかは分からない。
自分の知らないところで何かが起こる……というのは、決して珍しい事ではない。
むしろ、常にどこかで発生してると言える。
それを忘れ、
『そんな事はないだろう』
『大丈夫だろう、問題無い』
などと考える事の方がおかしい。
異常と言える。
危機意識がない。
そして、危機意識のない者達は必ず破綻する。
失敗する。
問題をつくりだす。
問題への対処を怠る。
(そうはならないようにしないと)
トモルが常に自分に戒めてる事である。
どこで何が起こってるか分からない。
だからこそ、何でも起こり得ると考える。
こういった心がけがあるだけでも何かが変わってくる。
起こった事態を受け止め、受け入れる事も出来るようになる。
必要な対処を考えていける。
単に心構えの問題ではある。
なのだが、この気持ちが有るかどうかで意識が変わってくる。
少なくとも、危機が起こらないと考え、何の対策もしないでいるよりは良い。
地震や嵐などの災害と同じだ。
何十年と発生してないからといって、それが無くなったと考えるわけにはいかない。
そう頻繁に起こらない事だから忘れがちだが、それらが襲ってくる可能性は常にある。
だから備えておく必要がある。
人の起こす災いも同じだ。
陰謀、計略、騙しに追い落とし。
様々な悪事が起こり得る。
それらが決して起こらないと考えてはいけない。
むしろ、よくある事と思っていた方が良い。
信頼や信用などよりも、こちらの方が起こる可能性が高いと考えて。
しかし、人というのはこういった事を忘れようとする。
考える事すら拒否しようとする。
こういった問題が発生する事を想像する事すら拒む者もいる。
何故そうしてしまうのかは様々な理由があるだろう。
その一つに、危機や危険を考えるのが怖いから、というのがあると言われる。
自分の心が許容できる範囲を超える事を、人は忌避する。
そんなものが存在すると思う事を認めたがらない。
認めてしまえば、自分の心が恐怖に耐えられずに崩壊するからなのだろう。
実際に存在しているのだから、拒んでも意味は無いのにもかかわらず。
ただひたすら、恐怖から目を遠ざけようとする。
怖いものから逃げる。
恐ろしいものを認識したくないと。
それが結果として対応や対処をせずに事態を悪化させていく。
これが全てではないにせよ、こういった者も中にはいるだろう。
考えるのも怖いから考えもしない。
そして、考えたくないから危機から目を逸らす。
逃避でしかないし、それで事態が改善される事もない。
むしろ、目を背ければ背けるほど問題は大きくなる。
どんなに恐ろしくても、決して逃げるわけにはいかない。
問題があるならしっかり見据えねばならない。
解決をしていくにはそうするしかないのだから。
この点においてトモルは決して臆病ではなかった。
何かが起こるかもしれないという恐怖と向かい合っていた。
目を背けたくなる事はあるが、それでもしっかりと見つめていた。
自分の知らないところで何かが起こってるという可能性。
それを常に頭に浮かべていた。
それでも何かが起これば右往左往するだろうとも思う。
即座に対応が出来るとも思わない。
それでも起こるかもしれない何かから逃げようとは思わなかった。
(さて、どうしたもんだか)
そこで考える。
現在起こってる問題を。
トモルが気づく事が出来た事態を。
それが引き起こしてる出来事と、それへの対応を。
(あのガキ……)
頭に浮かんでくるのは、自分もよく見知った娘。
古くから村に出入りしている行商人の子供。
エリカである。




