239回目 ラブロマンスなんて気の利いたものじゃありません 8
「────というわけだ」
「はあ」
「これ以外に解決方法を思いつかなかった」
説明をするトモルに、サエは衝撃を受けた表情を向けている。
それくらい突拍子の無い話だった。
だが、トモルが嘘を吐いてるわけではないのも分かっている。
「でも、本当にそんな事が出来るんですか?」
「かなり難しいけど、不可能って事は無いはずだ」
言いながら手にした資料に目を向ける。
現地に展開してる者達からの報告である。
大量に集めた冒険者を使って行なってる作業の経過がそこに記されている。
「すぐには無理だとしても、そう遠くないうちに出来るようになる」
現地の様子から、場所の確保は可能であるという見立ても出てきている。
それがトモルにこの作業が不可能ではないと感じさせていた。
「危険は危険だけどな」
柊領の外に拡がるモンスターの領域。
そこに食い込んでいく冒険者達は、一般に知られているより奥地まで到達していた。
ただ、その全てを公表してるわけではない。
一般に流布されてる確保出来た安全地帯の規模は、実際の三割以下におさえられている。
トモルの意向である。
これは、下手に情報を流すと様々な波紋を呼ぶ事になるのを危惧してものだった。
もし、情報を正直に公開したら、それを不審がる者達が続出するだろう。
モンスターという脅威をどうやって排除したのか?
それが出来るだけの人間がどこから出てきたのか?
最低でもこう考える者達は出てくる。
そして、広大な土地が確保出来たと知れば、横取りしようと考える連中も出てくる。
これを警戒してトモルは、実際に確保出来た土地を過少申告していた。
それでも、常識的に考えれば広大と言ってよい土地をモンスターから奪い返している。
だからこそ柊領はあちこちから注目されてしまっている。
この確保した土地の活用方法をトモルは考えていた。
モンスターを排除出来た場所を、いつまでも放置しておくのは勿体ない。
村の近くはそのまま村に解放するにしてもだ。
申告してない奥地については、トモルの方で利用しようと考えていた。
分かりやすく言うと、隠し田である。
好き勝手にやっていく為に必要な基盤。
それを作る為に、トモルは活動していた。
それは単純にトモル自身の野心の為でもある。
また、他からの干渉を極力排除するためでもある。
他者の干渉を受けるのは、自分に力がない場合である。
もし、それがあるならば、無視する事も出来る。
最悪の場合、相手に反撃する事も出来る。
それが出来るだけの力を手に入れるために、トモルは自分の領地を求めていた。
(面倒な連中は多いからな)
子供の頃から同じ貴族の子供などと接してきた。
そこで嫌というほど地位の違いを笠に着る連中を見てきた。
森園の家に行った時や学校に入学した時に、それは更に大きくなってあらわれてきた。
実際に自分で感じてみてつくづく思った。
こういう連中を排除するためにも、力が必要だと。
でなければ、宮廷で行われる様々な謀略によって叩き潰される。
それらをまとめて相手にしてもものともしない力が欲しかった。
その為に確保した土地である。
他の誰かに横取りされてはかなわない。
それが王家であっても、この王国そのものであったとしてもだ。
全てはトモルが自分自身の為に確保したものである。
他の誰かに奪われる理由などどこにもない。
(丁度良い機会としておこう)
あらためてそう考える。
今回、サエの家族に与える仕事として、これが一番適切だろうと思えた。
確保した場所に田畑をつくり、そこに移住させる。
今後すすめていく開拓の第一陣でもある。
(最低限の地ならしは俺がやるとして。
サエの家族にはそこに行ってもらうか)
これがトモルの考えた対応策である。




