233回目 ラブロマンスなんて気の利いたものじゃありません 2
結局は貴族の結婚である。
貴族であるならば、第二夫人や第三夫人がいてもおかしくはない。
そういう常識の中にいるならば、今回の事を納得するかもしれない。
サナエがそうであるかどうかは分からないが、納得は出来なくても了承はする可能性はある。
また、貴族同士であるというのも大きい。
なんだかんだで政略が絡むのが貴族の結婚である。
サナエは了承しなくても羽川家としては縁談を進める可能性がある。
柊家との繋がりが自分達に有利と思えば、娘の意志を抑え込むかもしれない。
好ましい事とは言えないが、これがサナエの気持ちを上回るかもしれない。
そうなれば、サナエを説得して婚姻を進める事もありえる。
この場合、トモルとサナエではなく、柊家と羽川家の繋がりという事になるだろう。
だが、出来る事ならサナエの承諾をとりたいところだった。
本人が嫌がってるのに強引に進めても良い事はない。
簡単な事では無いが、何とか納得してもらいたいもの。
その為にも、まず自分の意志や気持ちを伝えねばならない。
手紙を書くトモルは、一筆一筆に心と魂を込めていった。
男の本能がそこに上乗せされてるのは言うまでもない。
「……それでわざわざ」
呆れる羽川サナエは、目の前にいるトモルにため息を吐いてみせた。
わざとやってるわけではない。
手紙が届くとほぼ同時に目の前にあらわれたトモルに心底呆れてるのだ。
それだけの行動力があるから、学校において様々な活躍をしたのは分かるのだが。
「それにしても、もう少し落ち着いてみたらどうですか?」
「いや、面目ない」
素直にトモルは頭を下げる。
「けど、こういうのは手紙じゃなくて直接言った方がいいと思って」
「それはそうかもしれませんが」
「それに、手紙じゃ時間がかかるからな。
こうして直接話しをした方が早い」
「だからって……」
それが理由でわざわざ自分の家までやってくるとは、とサナエは驚く。
トモルの能力を用いれば造作もない事なのは分かってるのだが。
しかし、それでも直談判にやってくるとは思わなかった。
「それで、この事についてですか」
呆れながらも、受け取ったばかりの書面に目を通していく。
既に何度か読んだのだが、内容を確かめる為に再び目を通す。
「もう一人、お嫁さんをもらいたいと?」
「そういう事だ」
素直に頷く。
「気の利く子でね。
是非とも側に置いておきたい」
「それを私に言いますか?」
「言わないと話が進まないだろ」
「進めたからと言って、私が『分かりました』と言うとでも?」
「まあ、そこはさすがに無理かもしれないとは思ってるけど」
「はっきりと無理だと思わないあたりがトモル様らしいですね」
にっこりと笑みを浮かべるサナエ。
そこにトモルは、粒ほどの温かさも感じられなかった。
体感温度が急激に冷え込んでいく。
「……やっぱり駄目かな?」
「とりあえず、愉快な気分にはなれません」
サナエの声と雰囲気は、とてもとても冷めたものだった。




