232回目 ラブロマンスなんて気の利いたものじゃありません
「あの、トモル様……?」
「うん、まあ、いきなりこんな事言うのもなんだけど」
自分でも何を言ってるんだとは思っている。
だが、トモルはそのまま言葉を続けていく。
「サエも一緒に嫁に出来ればなって思ってはいるよ」
なんとなく勢いで言ってしまってる感はある。
考えていた事をそのまま口にしてしまったような。
それはそれで考え無しの行動と言える。
そうは思っていても、トモルは喋っていく。
これも良い機会だろうと考えて。
「サエは気の利くよい子だし、側にいてくれると嬉しいとは思ってる」
「え、あの」
「だから、出来れば近くにいてほしい。
他の誰かのところに行ってもらいたくない」
「あの、トモル様」
「いきなりで悪いとは思うけど、俺はそう考えてる」
「あの、ですから」
「だから、このまま近くに置いておきたい。
使用人とかじゃなくてね」
「…………」
「まあ、そんな事を考えてたんだよ。
結婚が近くなってるからなのかもしれないけど」
正確には婚約である。
だが、実質的な結婚と言える。
余程の事がない限り覆る事は無いのだから。
「すぐには無理だろうけど、一応はそう考えてる。
とりあえず、父上には話してみようと思ってる」
なお、決めたのは今この瞬間である。
サエに話してるうちに、気持ちが固まってきていた。
「俺の勝手で決める事は出来ないけど。
サナエの所の意向もあるし。
何よりもサエがどう思ってるのかが大事だから」
あらためてサエの方に向く。
「どうかな?
俺はそうしたいと思ってるけど」
「え、え、ええええええええ?!」
サエの叫び声が周囲に響き渡った。
思い立ったが吉日である。
そう言わんばかりにトモルは行動を始めた。
まずは父に報告。
サナエに続いてサエを第二夫人にしたいと。
これにはさすがに父も驚いた。
「何を馬鹿な」
とも言った。
別に一夫一妻にこだわってるわけではない。
この世界、女房が複数というのは別におかしな事ではないのだから。
だが、それが出来るのは相応に裕福な者達くらいである。
最近羽振りが良くなってきたとはいえ、辺境の末端領主の柊家がするような事ではない。
それに、第一夫人の事も考えねばならない。
配偶者の事を無視して進められる話ではないのだ。
「まず、相手の意向を確かめないと。
それもまたどうかと思うが」
父はさすがに考えてしまう。
まだ結婚前の婚約段階である。
そんな状態で二番目の女房を迎えるなどと切り出して良いのかどうか。
いくら世間的に問題がないとはいえ、配偶者が難色を示す事はある。
それこそ家の中に火種を抱える事にもなりかねない。
あくまでこれらは、当事者の納得があって成り立つ事だ。
今回の場合、最低でもサナエの同意や了承が求められる。
無くても強引に話を進める事も出来るが、その場合お家騒動になりかねない。
「とにかく相手にしっかりと説明しろ。
そして了承を得てこい。
でなければ何も進まない」
当然のことを父は念押しした。
「もちろんです」
トモルもそれは分かってる。
なので、サナエの所に早速手紙を出す。
納得してくれるかは分からないが、それでもこちらの意向を伝えねばならない。
それで話が駄目になるならそこまでである。
そうなったらどうしようとは思う。
だが、やらねば先に進まない。
(何とかしないと)
事を上手く進める為に何か出来ないかと考えていく。
だが、最終的に大事なのはサナエの気持ちである。
こればかりは知謀を働かせてどうにかなるものではない。
最終的に必要なのは誠意となるだろう。
が、この部分が今回心許ない。
何せ、婚約を確たるものにしようという段階にもかかわらず、妾を囲いたいと言ってるのだ。
相手が呆れる可能性は充分にあった。
(俺だって、こんな話が来たら納得しないだろうし)
そうも思うので、あまり期待は出来なかった。
ただ、勝算が全く無いわけではない。




