222回目 裏側というかもう一方の動きという、陰謀めいた何か 6
(けど、本当に誰が吹っかけてきてるんだか)
考えるのも嫌になるが、逃げるわけにもいかない。
頭が重くなるのを覚悟して、敵対する可能性のある存在を思い浮かべていく。
ただ、そんな事が出来るものはそう多くはない。
必然的に想定する相手というのはかなり限られたものになっていった。
まず、柊家は紛れもない貴族である。
当然ながら政府や政治が背後にいる。
そこに喧嘩を売るなら、政府と対等に渡り合える者達となってくる。
この時点で相当に数が絞られてしまう。
実際問題として、政府に喧嘩を売れるのは、同じような政府かゲリラやテロリストしかいない。
つまり、他国からの工作活動か、政府転覆を狙う活動家という事になる。
最も考えやすい敵対組織となるとこういうものがある。
末端に位置するとはいえ、柊家も貴族である以上こういった勢力の対象になる可能性はあった。
ただ、だからと言ってこれらがやってきてるという可能性は考えにくかった。
確かに柊家は貴族だし、こういった連中の対象になる可能性はある。
しかし、それでも末端の貴族にわざわざちょっかいをかけるだろうかとも思える。
他国の介入ならば、国境を接してるあたりで活動しそうなものではある。
ゲリラやテロリストだって、もっと政治の中枢に関わる所を狙うものだろう。
残念ながら柊家はそのどちらでもない。
国家の外縁に位置してるは確かだが、接してるのはモンスターの蔓延る無人地帯である。
こんな所にわざわざちょっかいをかけるだろうかと思えた。
(いや、まあ、それも布石の一つなのかもしれないけど)
トモルの思いつかないような何かを考え、その為の第一歩として狙いを付けたのかもしれない。
即効性はなくても、長い時間をかけた工作の第一歩なのかもしれない。
あるいは何らかの計略の一環として柊家を狙ったのかもしれない。
しかし、それにしてもわざわざこんな辺鄙な田舎までやってくる理由が分からなかった。
もっとも、単純な敵対というわけではないかもしれない。
何らかの形で弱みをつくっていく。
それが言いがかりでもいいから、介入する口実を作ろうとしてる。
この可能性も考えられた。
これはこれであり得る話ではある。
手段としていかがなものかと思うが、意外なほどよく使われる方法ではある。
足の引っ張り合いというか、ちょっとした落ち度をつついて話を大きくするのは珍しい事ではない。
特に利権に食い込みたい場合などにはちょくちょく用いられる。
それくらいにはありふれた手段であった。
そして、それだけ用いられるくらいに効果がある方法であった。
そうであるならば、敵は他国やゲリラ・テロリストというわけではなくなる。
国内の、おそらくは同じ国貴族などになる。
あるいは商人や工房などの可能性もある。
これらが手を組んでるというのもある。
何にせよ、可能性のある者達はかなり数多くなっていく。
国内にいる全ての存在が敵という可能性だってあった。
それこそ、手下として犯罪組織が動き出してる可能性だってあった。
こうなると誰が味方で誰が敵なのか分からなくなる。
(というか、全部が敵だと思っていたほうがいいかも)
今は協調路線をとってる者達すら敵に切り崩されてる可能性があった。
それこそ、柊家で役人として囲ってる者達の家族すらも。
それ程に貴族社会は離合集散が激しい。
昨日までの敵が手を取り合ったり、長年友好的に接していた者達同士で殺し合いが発生したり。
そんな事をしながら成り立ってるのが貴族社会である。
下手に気を許すことが出来ない、陰険な世界であった。
むしろ、基本的に敵対しており、時と場合によっては共同歩調をとる事がある、というのが正解なのかもしれない。
(本当に鬱陶しいなこの業界)
貴族社会を業界というのも何だが、そういう風にとらえてないと気が滅入りそうだった。
そして、そう割り切る事が出来れば、それなりの対処も出来るというものでもある。
少なくとも、相手への遠慮を一切しないでよい。
気分はそれだけで随分楽になる。
実際に対抗抵抗出来るかどうかは別としても、気構えだけはとれるというのは精神的に楽になる。
それだけでも今はありがたく思えた。




