216回目 実家のお仕事 7
(まあ、まずは出来るところから)
やりたい事はあるが、大きすぎてまだ手が付けられない。
強大な能力を持ってるとはいえ、それだけで事が進むほど物事は簡単ではない。
出来る所から一つずつやっていくしかなかった。
(最初の一歩は小さなもんだってのは基本だし)
その一歩を踏み出せるかどうかが大事なのである。
そして、小さな一歩をどれだけ重ねていけるのかも。
結局は継続出来るかどうかである。
利益が出るまで、成果が出るまで、結果が出るまで。
あらためて考えると、この小さな領地がいかに何も無いかがよく分かる。
辺境の小さな地方領主なのだから仕方が無い。
現代日本に当てはめてみれば、それこそ町内会程度の大きさである。
そんな小さな範囲なのだから、何も無くて当然だ。
もちろん、人が居て、その人が食っていけるだけの産業はある。
農業とそれを支えるだけの工業や商業が。
そして、それらをまとめる中枢として、領主の統治機構(と言うのもおこがましいが)がある。
本当の意味で何もないわけではない。
しかし、拡大と拡張を考えた場合、足りないものがあまりにも多いのも事実であった。
(長い道のりだな)
覚悟はしていたが、やるべき事の大きさと多さにため息が出る。
これが自分だけの事ならそう悩む事も無いのだが。
(レベルアップのように簡単にはいかないよな、やっぱり)
驚異的な伸びを示す自分だけなら、簡単に人の領域を超えていける。
既に並大抵の人間をはるかに超える能力値を示している。
しかし、集団や社会はそう上手くはいかない。
一足飛びに成長というのはありえなかった。
それらは全て他人が構築しているものである。
トモル一人が成長してどうにかなるものではない。
(こればかりは気長にやるしかないか)
トモルの能力をもってしても、こればかりはどうしようもなかった。
せいぜい、全員の能力を魔術で強化して、モンスターを相手にした戦闘を有利に進めさせるくらいだ。
そうすることでレベルアップを促進し、優秀な人間を育てていく事が出来る。
この人材育成方法が、他と隔絶してる部分ではあるが。
それらが各所に展開し、様々な分野の底上げはしていくだろう。
それにしても、目に見えて発展するまでには時間がかかる。
(本当に何十年単位で時間が必要になるな、これじゃ)
そう思い、再びため息を吐く。
なまじ先を見通すだけの智慧と知識があるだけに、苦悶も大きかった。
そして。
そんな苦悶すらも無駄になるような事態も進行していく。
大きな動きがあれば、それは隠しようが無くなる。
大量の冒険者流入による核の大量収穫。
貴族子弟を抱え込む事による領主の拡大。
必要になる物資の受注量の増加。
それらは目端のきく商人や職人、統治者である貴族などの耳目を集めるものであった。
見逃すような盆暗はそう多くはない。
優秀なものほど、野心を持つものほど動きは早くなる。
好意的とは言い難いものも含めて、動きは広範囲に拡大して起こり、加速していく。




