215回目 実家のお仕事 6
やりたい事は他にもある。
増大する取引量に対応して、商人の数を増やしたい。
職人を呼んで、産業も興したい。
より高度な教育を普及させて、読み書きや計算以上の事もおぼえてもらいたい。
基本中の基本であろうこういった事を、とにかくやっていきたかった。
それだけ必要性が高まってるというのを見越しているからだ。
とはいえ、これらも居着かせるのも難しい。
領主として政治的な部分の条件をととのえたとしてもだ。
結局のところ、ものを言うのは需要である。
商人にしろ職人にしろ、生活していけるだけの発注量が無ければ商売にならない。
客の数がものを言う。
増えた冒険者がこの部分を解消しつつあるが、それでもまだ足りない。
商人や職人が増えるのは、もう少し先の事になるだろう。
それも冒険者の流入が増えれば解決するであろうが。
教育の方も似たようなものである。
こちらは単純に領主である柊家の財政問題による所が大きい。
学校を作りたくても、それだけの資金がなければどうにもならない。
村人の余裕にも関わってくる。
村人からすれば、子供とて労働力ではある。
それを割いてまで学校に通わせる事は、まず無い。
そんな暇があるなら、家の仕事を手伝わせた方が良い、という考えがほとんどだ。
読み書きや計算くらいはさすがにおぼえさせはするのだが。
それ以上となると、必要性を感じるものはほとんどいない。
このあたりの意識改革をするために、幾らか対応策を考える必要もある。
いずれもトモルが直接どうにか出来る事ではない。
財政状態や人の考えや心が関わってくる部分だ。
需要の方は、一人当たりの収入が増えるか、人口が増えねばどうにもならない。
教育の方は、人の意識が変わらねば賛同者も出てこない。
こればかりは簡単には解決しない問題であった。
(小さい所から始めていくしかないな)
何にしろ、いきなり大きな事は出来ない。
商人は少しずつ増えていくのを待つしかないだろう。
そのうち行商人の中から居着く者も出てくるのを期待するしかない。
職人も、今は村にいる鍛冶屋に任せておくしかない。
そのうち弟子をとって業務を拡大するかもしれない。
教育も、最初は興味のある者を一人か二人だけでも教えていくしかない。
それらが育っていけば、教育の成果がどういうものかを理解する者も出てくるだろう。
実際に目にしてみれば、その意味や意義も分かるだろう。
(出来れば、教育は普及させたいけど)
教育については、とにかく少しでも早く始めたかった。
また、出来るだけ多くの者に受けてもらいたかった。
読み書きや計算だけで留まってもらっては困る。
今後、人手はどんどん必要になる。
高度な知識を持った人材も求められる。
それに対応出来なければいけない。
特に役人として採用するとなると、相応の知識が求められる。
それに対応出来る人間が欲しかった。
貴族の子弟だけでは、いずれ人材が底をつく。
そうなる前に、平民庶民からの採用も出来るようにしておきたかった。
その為にも、読み書きと計算が出来るだけでは困るのである。
他の分野でも似たような事になるだろう。
ある程度の教育がなされた人材でなければ対応出来ない分野も出てくる。
そうなった場合、事前に教育がなされた人間がいれば採用しやすくなる。
今後の発展の為にも、教育を受けた人間は必要だ。
その為にも高度な教育が必要だった。




