214回目 実家のお仕事 5
(我が家と冒険者の協力体制の方はこんなもんか)
成立していく両者の関係については、とりあえずある程度の形が出来てきた。
あとはこれを上手く成長させていく事になる。
それが無理なら、双方共に節度をもった距離を取る事になるだろう。
それを見極める為にも、とりあえずある程度は一緒にやっていく事になる。
とりあえず三ヶ月。
この期間の間、柊家と冒険者とは協力していく事になる。
お互いの試用期間でもあるこの間に、それなりに上手くやっていく方法を見つけていかねばならない。
「上手くいけばいいんだけど」
トモルとしても心配ではあった。
柊家の人間と冒険者とで衝突が発生しないかが気になっていた。
片方は、末端の貴族とはいえ、そこの家来であるという意地や見栄がある。
もう片方には、冒険者として荒事を乗り越えてきたという実績に裏打ちされた自負がある。
それらが衝突する可能性は高い。
まして庶民や平民というのは短気で短絡的で、ちょっとした事ですぐに頭に血が上る。
それは柊家の家来も似たようなものだ。
ちょっとでも癇に障るような事があれば、それで激昂する事も珍しくない。
その理由がどれほど下らないものであってもだ。
このあたりに貴族や平民といった違いはない。
どちらもそれぞれが背負ってるものをもってる。
それが貴族の家名であったり、冒険者としての矜恃であったりする。
こういったものが侮りを受けてると感じれば、それだけで突っかかる理由になってしまう。
ある程度の事は許容しようという考えが無い。
少しでも己の領分が侵されたと感じれば、それだけで衝突が発生する。
つまらない事が原因で喧嘩になり、殺し合いすら起こる事がある。
(それだけはどうにかしないと)
まずは人選に気をつける事にする。
ある程度穏和で誠実な人間。
能力はこの際二の次でも良い。
最悪、トモルが強化魔術で能力を底上げすれば良いのだから。
大事なのは気性の方である。
譲れる所は譲る事が出来る人間でないとどうにもならない。
(こっちの方はどうにかしてみるか)
己でどうにか出来る冒険者の方は、トモルの方で何とかしようと思った。
問題なのは、柊家から送り込まれる人間である。
そっちの人選はトモルが関われるものではない。
まともな人間がやってくるよう願うしかなかった。
父親の方もそこは考えたのか、選んだのは割とまともな人間だった。
確かに能力は大した事はないが、穏やかな性質の者が三人ほど選ばれていた。
兵士として採用されつつも、さほど目立たずにいた者が一人。
それと、部屋住みの貴族で柊家にようやく仕官できた、これまたあまり目立たない者が二人。
性格的にさほど揉め事を起こしそうにない者達である。
だからこそ、今回選ばれたのかもしれない。
能力についてはさして期待は出来ないが、問題になるほど劣った人間というわけでもない。
人選としてはまずまずではあるように思えた。
(足りない分はレベルアップで補えばいいわけだし)
そう考えるトモルは、当面は問題無さそうだと思う事が出来た。
かくて貴族と冒険者の共同作業が始まる。
小さな小さな第一歩だった。
だが、これを端緒にして、今後の両者の関係を作っていければとトモルは考えていた。
余計な面倒が生まれる可能性もあるが、その時はその時である。
何の関係もない、相手の事も知りようがないよりはマシだった。
それで、お互い歩み寄れないという事になったら、縁を切れば良いのだ。
そうであるかどうかも分からない今は、まず一緒にやっていく事が必要だった。




