207回目 先に身を固める方がいいかなと考え始める
「婚約相手?」
トモルに話をもちかけられた父は少しばかり驚いた。
「なんだって急に」
「急でも何でもないじゃないですか」
トモルはやや呆れ気味にそう反論する。
「タケジの所との縁組みをしようとしてたのは誰ですか?」
「まあ、それはそうなんだが」
それを言われると父も言い返す言葉がない。
「まあ、それはタケジの家が無くなった事で無くなりましたけど。
でも、どこかとの縁組みを考えてないって事はないですよね」
「まあ、それはな。
いずれどこかとの結びつきは必要になるだろう」
「だったら、別に急でも何でもないじゃないですか」
そう言ってトモルは父の考えを訂正した。
「しかし、お前の方から言ってくるとはな」
「勝手に決められるよりは良いですから」
タケジの家の事を思い出してしまう。
「色々考えての事なんでしょうけど、さすがに嫌な所と結婚はしたくないので」
「ああ、なんだ、やっぱり嫌だったか?」
「当たり前です」
躊躇うことなく言い切る。
「何がかなしくて、あんな奴と家族にならなきゃならないんですか」
幼少期のタケジとのいざこざもあるし、タケジの家の連中の性分の事もある。
評判が悪く、実際評判通りに悪さをしてる連中との縁組みなぞやりたくはない。
いくら貴族の義務だとしても、そういった悪縁は出来るだけ結びたくなかった。
「個人的にも嫌だし。
我が家の評判も落ちるでしょう。
何より、運気が下がります」
そんな繋がりなど、わずかであっても持ちたくはない。
「だったら、まだ納得出来る相手との縁組みをさせてください」
それがトモルの本心だった。
どうせ結婚が避けられないなら、相手を選びたかった。
自分にとって最良の相手はさすがに難しいにしても。
最低限、自分にとって問題の無い相手、納得の出来る相手に。
幸いかどうかは分からないが、トモルには特別好きな相手というのはいない。
言い換えれば、それなりの相手であれば誰でも良いと言える。
無節操な事この上ないが、こだわりがないので、自分が納得出来るならそれでよかった。
さすがに、恋物語に出てくるような運命の相手とかいうものは求めてない。
そういうのが居ればいいとは思うのだが。
「しかし、相手がいるのか?」
「そこなんですよね」
父の言葉にさすがに口ごもる。
「まあ、あの人ならいいんだけどって思うのはいますが」
「ほう」
息子の返答に意外そうな声をあげる父。
「学校で見つけたのか」
「ええ、まあ。
そんな所です」
「お前も意外とやるもんだな」
「はあ。
でも、それほど親密というわけでもないので」
一応、正直に伝えていく。
仲違いはしてなくても、結婚が絡むような関係だったとは言い難い。
「なんだ、声はかけなかったのか?」
「それなりの接点はありましたけど、向こうがどう思ってるかは何とも」
言ってる事に間違いはない。
学校にいる間は仲間として頑張ってくれた。
戦友や同志と言える間柄だとは思っている。
しかし、色恋沙汰になるような関係でないのも確かである。
好意はお互い持っていてもだ。
「せいぜい良い友達のような気もします」
「なるほど」
その言葉で父も何かを察したようだった。
「でも、気になる相手はいるという事だな?」
「ええ、まあ。
出来ればあの人がいいかなとは思ってます」
数年間一緒にやってきたので気心は知れている。
そこが大事であった。
よく分からない相手と関係を結ぶよりは良い。
少なくとも悪い人間ではない事は分かってる。
家の都合で人となりが分からない相手と結婚する事が普通の貴族としては上出来である。
(見た目も悪くはないし)
そんな下心もある。
縁談の相手としては申し分なかった。
「出来れば早めにお願いしたいです」
「分かった」
父は躊躇う事無く頷いた。
「まずは先方に話をしてからだが。
家柄が同じくらいなら問題は無いだろう」
「お願いします。
家柄の方は大丈夫なはずです」
聞いたところでは、柊家と爵位は同じであったはずである。
身分の問題は存在しない。
「なら大丈夫だな」
これでトモルの縁談が進む事になった。
(助かった)
とりあえずこれで当面の問題は回避された。
下手なところと縁結びさせられるという。
たとえお話が破談になったとしても、それはそれで良かった。
話が進んでる間は、他のどこかと縁談が持ち上がってくる可能性は低い。
よからぬ話が舞い込む事への牽制になる。
(暫くは時間稼ぎだ)
余計な事に煩わされずに済むのがありがたい。
その間に、やれる事に手をつける事が出来る。
最大の利益はそれであるとも言えた。
ただ、そんな打算だけというわけでもない。
(あいつと上手くいくなら、それで問題もないし)
あとは相手の気持ち次第であるが、話がうまく進んでくれるなら、これほど有り難い事もなかった。
悪い印象を抱いてない相手である。
かなうならば、上手く縁がもてればとは思っていた。
(でも、あっちがどう思ってるか分からないからなあ)
問題はそこだった。
最終的には本人の気持ち次第である。
こればかりはトモルがどうこう出来る事ではない。
上手くいくよう願うしかなかった。




