206回目 側付きの二人への率直な評価(および下心)
柊家で使用人として奉公していたサエとエリカ。
二人の事は、休みに帰郷する度に見ている。
その為、今まで全く接点が無かったというわけではない。
帰省すれば何かしら接触があった。
なので、久しぶりの再会、というような感慨はない。
それでも、自分に付けられた使用人として今後は一緒だと思うと、色々思う事もある。
(しかし、いいのかね、こんな可愛い娘が側付きって)
端的に言えばこういう事になる。
サエにしろエリカにしろ、充分に可愛いといえる女の子である。
それが自分の身の回りの世話係となる。
(ありがたいはありがたいけど)
あれこれとよからぬ事をしてしまいそうである。
したとて咎められる事もない立場なのが余計に困る。
歯止めがきかなくなりそうだった。
主に性的な意味で。
もっとはっきり言えば、エロい意味で。
とはいえ、本当に手を出したら、相応の責任はとらねばならない。
貴族という特権が認められ、平民庶民が相手ならある程度の無礼は許されていてもだ。
男が女に手を出したら、自分の手元で世話をするくらいの責任はとらねばならない。
恋人や配偶者がいる相手だったら、不貞を犯したかどで咎められる事になる。
特権とは相応の義務が課せられるから与えられるのだから当然の結果である。
貴族の特権の場合、それは統治のためというのが大前提である。
その為の無理や、強硬手段も認められている。
それが統治するべき民を苦しめたとあれば本末転倒である。
民を治め、平穏を保つための特別な権利で、どうして民を傷つける事が許されるのか。
なので、トモルがサエやエリカに手を出せば、相応の罰が下る事になる。
もっとも、そうやって咎める為には相応の強制力が必要である。
今のトモルの能力を考えれば、罪を犯しても拘束する事は難しい。
だからこそトモルは、自分を抑え込む事が出来るか悩んでいた。
そう悩むくらいには二人の容姿は優れている。
(やったぜ……!)
そう思ったとて、誰も責める事が出来ないくらいには。
絶世の美女とまではいかないまでも、平均値や中央値は軽く超えている。
そんな二人が側仕えとしてこれから一緒にいる事になる。
衝動と血圧が抑えきれないほど高まりそうになるのもむべなるかな。
(色々気をつけないと)
手を出したなら出したで、責任をもって引き受ければ良いのだが。
そうする為には、最低でも柊家の規模を今よりも拡大せねばならない。
いわゆる側室なども認められてる世の中である。
それも、それが出来るだけの裕福さがなければどうにもならない。
愛情などは言うに及ばずだが、それもまた、支えるだけの甲斐性があっての話。
たとえどれだけ互いの気持ちが通じ合っていても、相手をいたわる事が出来てもだ。
生活が支えられないのでは意味がない。
食うに困るような日々が続いたら、いずれ待ってるのは死である。
平民庶民とさして変わらない暮らしぶりの男爵家の事、側室なんぞを構えたら確実に破産する。
金回りが良くなってきてる今であってもそれは変わらない。
実入りも大きくなったが、出費もまた大きくなっている。
様々な維持費や経費が必要になっている。
そんな今の状況をよりよくせねば、責任をとるどころではない。
(これも頑張らないと)
万が一手を出してしまった場合の事も考えて、家を発展させる事をあらためて誓う。
それ以上に、なるべく二人には手を出さないように気をつける事にする。
(そうなる前に、結婚相手でも決めておいた方がいいのかな)
どれだけ効果があるのか分からないが、抑止力になるかもしれない。
そう考えて結婚の事も考える。
どのみち、避けては通れない事である。
貴族だけに、何らかの繋がりはどこかとつけておかねばならない。
義務ではないが、そうした繋がりがある方が有利なのは否定出来ない。
だからこそ、タケジの家との縁談も出てきたのだから。
(変なところと縁組みさせられる前に、行動した方がいいかも)
目の前の二人への抑止力としてだけではなく、自分自身の安全の為にもその事を考えていく。
またとんでもない所と縁組みさせられてしまったらたまったものではない。
手を出せる相手ならよいが、それも難しい所との縁談だったら消滅させるのも手間になる。
(早め早めに動いておくか)




