204回目 これからについて考えていく
そんな宴を終えて部屋に戻ったトモルは、ようやく一人の時間に戻る事が出来た。
そこでこれからの事を考えていく。
(領地の方は、手伝いから始まるんだろうけど……)
問題は、冒険者やその他の部分についてどうするかである。
出来ればそちらに時間を割きたいところではある。
しかし、父の手伝いをしていくとなると、その時間もとれなくなるだろう。
そこをどうにかしたいところだった。
(いっそ、領主を辞退して弟に譲るか?)
それも本気で考える。
今は学校に通ってる弟に、柊家の方は任せてしまおうかと。
それで困るわけでもない。
何せ、柊家で実務を担ってるのは、トモルの息のかかった者達だ。
操ろうと思えばいくらでも操れる。
ただ、貴族という地位はそれなりに便利ではある。
それだけで、貴族社会に食い込めるのだから。
接する事が出来るのは同程度の地位にいる、言ってしまえば貴族の底辺であってもだ。
その繋がりはバカにならない。
また、領主の肩書きもバカにならない。
貴族といっても、役職も何もない無役と、末端と言えども領主では天地の差がある。
出自の家の格も関わってくるが、何にしろ肩書きがあると便利だ。
それを捨てるのももったいない事ではある。
(上手く両立出来ればいいんだけど)
かなりの無茶を考えてしまう。
領主の跡取り、ひいては将来の領主でありながら、上手く冒険者などを使える立場になれればと。
そんな都合の良い話があれば楽なのだが、なかなかそうはいかない。
跡取りとしての仕事が始まれば、おいそれと冒険者達の方に顔を出すことも出来なくなる。
また、やりたい作業にも手を出せなくなる。
それでは学校にいる時と大して違いはない。
(どうにかしないと……)
家に戻ってきたはいいが、まだまだ問題はある。
それを確実に解消していかねばならなかった。
(少しずつやってくしかないか)
あれこれ考えるが、結局はそうするしかない。
何をやるにしても、今できる事から手を付けていくしかないのだ。
とりあえず今のトモルに出来る事はあまりにも少ない。
これから領地の統治に携わる事にはなる。
だが、実際に何が出来るというわけではない。
実権は父が握っており、トモルは見習いの立場だ。
父が引退して領主の地位を引き継ぐまでは、あれこれ指示を出す事はないだろう。
ある程度仕事を任されるにしても、あと数年はかかる事になる。
それまでの間は、裏側で色々と仕掛けるしかない。
(面倒だな、本当に)
なまじ学校で色々とやりたいようにやっていたので窮屈に感じてしまう。
いっそ実権を握れれば良いのだが、さすがに強硬手段は使えない。
落ち度があるならともかく、そうでもない父親を処分するのは気が引けた。
トモルにとっての面倒を何かと持ち込む事はあってもだ。
例えばタケジの家の者との婚約話。
それ自体はトモルからすれば鬱陶しい話である。
しかし、領地をまとめるという観点からすれば間違った判断ではない。
ごく一般的な領主としては極めて真っ当な判断だ。
それを否定したり非難する事は出来ない。
そう、トモルの父親は極めて真っ当でまともな領主なのだ。
さすがにそれを間違ってるとは言えなかった。
トモルにとって最悪の選択であってもだ。
(上手く折り合いをつけてやってくしかないんだろうな)
領主としての父の手腕は決して悪いものではない。
平々凡々ではあるかもしれないが、それは上手く領地をまとめてるという証拠である。
名を残すような業績はあげないだろうが、悲惨な状況に陥るほどの落ち度もない。
トモルもそれは分かっている。
(それが普通だしな)
歴史に名を残すような傑物など、そうそう出現する事は無い。
世の中というのはそうではない普通の人間によって作られている。
その中で父は良くやってる方だとトモルは評価していた。
問題無く経営運営するというのは、それはそれで優れた能力である。
それが出来ずに問題を大きくする者だっているのだから。
そんな父を放逐するつもりはトモルには無かった。
むしろ、面倒な些事を担ってくれてありがたいくらいに思っている。
時折やってくる面倒事もあるだろうけども。
それらは適度に対処していくしかないと分かってもいた。
(仕方ないか、これは)
人間同士の集まりの中で生きてるのだ。
多少の煩わしさは必要経費として割り切るしかなかった。
例え、常人を凌駕するだけの力を持っていてもだ。
(とにかく、何年かは大人しくしてるしかないな)
表だってあれこれやるつもりはなかった。
やらねばならない事は裏側から手を伸ばしていくしかない。
それはそれで面倒だが、今は表であれこれ動くわけにはいかなかった。
(当分は今まで通りか)
分かっていた事だが、面倒な事である。




