202回目 問題の解決とその後 2
今回も通例通り、現場検証は時間をかける事もなく終わった。
火の周りの早さと、一家全員が犠牲になるというのは異常ではあったが。
それとても、全く類例がないわけではない。
運が悪いとこういう事もある、と現場の調査にきた役人達は結論づけた。
それなりに火災の現場を見てきただけに、そう考えるのも無理はない。
出火した場所と、そこから火が移動していく方向なども、特におかしなところはない。
一家の誰もが逃げ出さなかったのも、火による酸素欠乏によるものだろうと推定された。
それを覆すようなものもない。
この火災は、不幸な事故として処理され、それで全てが終わった。
現地を統治する柊家は、その検査報告を受け、
「災難でしたなあ」
と言われた。
「まあ、防ごうと思っても難しいものですが。
それでも、今後このような事故がないようお気を付けください。
いや、こんな事いうのも野暮だとは思うのですが。
これも職務なので、どうかご勘弁を」
一々うるさく言って申し訳ない、といった調子である。
礼節を忘れない役人の態度と、気遣いの言葉をもらう。
柊家の当主は、こちらも丁寧に「お役目ご苦労様です」と返事をした。
これで領主がやるべき仕事の一つが終わった。
実際、柊家にとっても、それ以上何かする必要もない。
焼け跡と死体の処理をして終わりである。
領主としても、特に事件性のない事にいつまでもかかわっていられない。
統治下の各村に、火の元の注意と後始末をしっかりするよう伝えて終わりだ。
それよりも、空いてしまった村長の座をどうするかを考えねばならなかった。
火事よりこっちの方が重要と言える。
一家全滅なので、跡継ぎも消えてしまった。
ならば村の中から誰か適当な者をたてるしかない。
あるいは、適当な親類縁者でもいれば、というところである。
しかし、村の中から下手に選ぶと、そこに嫉妬などが生まれる事にもなる。
今まで同じ立場だったものが、いきなり目上になるのだ。
それを受け入れられない者もいる。
人間、今まで同列だった者が上に出る事など、そうそう簡単に認められないものである。
かといって親類縁者を辿るにしても、これが難しい。
村の者達は、何らかの形で親戚関係になっている。
その中からもっとも近い縁者をみつくろっても、候補者が複数となってしまう。
しかも、外の村に出た者だっているのだ。
それをいきなり村長にするとなると、これまた簡単に認めたくないと思ってしまう。
選挙という手段を使ってもこれは同じだ。
投票した者が当選した場合はよい。
しかし、選挙は決してそういう結果をもたらすわけではない。
自分が投票した者が外れたら、それに不満を持つ者も出る。
それで、決定に背くという事も発生する。
こんな事が当たり前のように発生してくる。
だから次の村長選びはかなり面倒な事になる。
領主の権限で決定しても、それに不満を抱く者も出てくる。
それでも最終的には強行しなくてはならなくなるだろう。
最終的には村の者達もそれで仕方ないと認める事にはなるだろうが。
それでも、へそを曲げる者は出てくる。
そんなわけで、世襲というのが一番無難で面倒のない決定方法となってしまう。
誰かが選んだわけでも頼ったわけでもない。
でも、下手に誰かを選ぶくらいなら、代々の継承の方が無難だ、という事になっていく。
下手に代表者を選出するよりは、騒動も起こらない方法ではあった。
それが出来ないから、今回の村長の決定は面倒な事になってしまう。
「やれやれ……」
柊家の当主のぼやきが、誰に聞かれる事もなく漏れていった。




