200回目 帰郷にあたってまた問題が 3
(どうにかしないと。
それも、すぐに)
トモルの頭はそれだけでいっぱいだった。
このままいけば、確実に婚約となってしまう。
そうなったら、柊家はおしまいだ。
下手すれば、タケジの家の者達に柊家が乗っ取られる事もありえる。
表立っては柊家が存在していても、裏で糸を引くようになりかねない。
というか、確実にそうなるとトモルは考えていた。
(連中のやり口を考えればなあ)
基本的に、タケジの家のやってることは、迷惑をかける事である。
そう簡単に排除されない立場を利用し、好き勝手やる。
それが嫌ならば、言う事を聞け、というわけである。
つまりは脅迫である。
こんな方法がまかり通ってるのだから恐ろしい。
そんな連中を大人しくさせる方法など一つしかない。
(本当に身動き出来ない状態になってもらうしかないか)
手間がかかるのであまりやりたくないが、トモルは思いつく解決手段を実行する事にした。
帰郷の途中であるが、やるべき事をやるしかない。
その夜。
帰郷途中の宿から抜け出したトモルは、目的地へと向かう。
能力強化の魔術を使い、凄まじい速度で走りながら。
そんなとある日の夜。
タケジの家は突然の猛火に巻かれて焼け落ちていった。
竈から拡がったと言われる火炎は、家を丸ごとくるんでいった。
当然ながら家に居た者達はその中で息絶えていく事になる。
火の勢いを示すように、全身を炭にして。
この結果に村の者達も、検分に来た柊家当主であるトモルの父も唖然とした。
確かに夜中の事であり、寝ている時に火に襲われたらどうにもならないだろう。
しかし、誰も生き残れないほどの猛火が、そんな簡単に発生するのかと思った。
いくら何でも、そこまでの猛烈な勢いの炎など、そうそう発生するわけではない。
一人か二人くらいは逃れる事が出来るものである。
だが、それが今回は全く発生していない。
タケジの家の者達は、揃って寝所で消し炭になっていった。
ただ、不思議な事に、タケジの家の使用人達は生き残ってる。
事前に逃げる事が出来たようだ。
これもこれで不思議なものである。
「おかしなもんだ」
その後やって来た役人も、保存されていた現場の様子を見て首をかしげた。
だが、おかしいと思ってはいても、現実にそうなってるのだ。
それを覆す事は出来ない。
「まあ、本当に熟睡していたら、火に気づく事もないかもしれんし」
「火に包まれてしまえば、呼吸も出来ないと言いますからな。
火が回ってる頃には、もう息が出来ずに窒息してたのかもしれません」
結局、検分結果としてはそう記すに留まった。
そしてこの出来事は、その後思い出される事もほとんどなく、時間の流れにのみこまれていった。
翌朝。
トモルは何気ない顔で宿に戻っていた。
魔術による肉体強化を駆使し、一晩で目的地へ向かい、やる事をして。
結果は出た、成功である。
その事で気分は爽快だった。
それが巻き起こす事態がどうなるかは予想しきれない。
しかし、それほど悪い結果にはならないと思えた。
少なくともトモルにとっては良い事に繋がっていくはずである。
(まあ、駄目ならその時はその時だ)
つとめて気楽に考え、馬車に乗り込む。
早ければ今日明日にも実家に到着する。
それまでは何も考えずにのんびりやっていこうと思った。
その後、無事に家に帰り。
なんだかせわしない家の中を見て、事が皆に知られてるのを察した。
あらためて何があったのかを聞き、求めていた通りの結果になってるのを知る。
その結果に安堵した。
慌ただしく動く者達と、深刻そうな顔をした者達。
村や家の者にとっては大変な事なのだろう。
しかし、トモルは望んだ結果が出てる。
あとは求めていた通りの流れになれば、と思いながら親に挨拶を済ませ、部屋に戻る。
そこで大きく息を吐いた。
(これで学校に時間をとられる事はなくなったな)
それ以外の面倒も解消したと考えながら。




