192回目 学校における出来事のちょっとした事後報告 4
悪事や犯罪は、それによって得られる利益が何かしらある。
それは金銭や権力だけに限らない。
単純に、
「やれば楽しいから」
という感情的なものも含まれる。
そして、その為に他の誰かを不当にいたぶる。
それは取引とはとても言えないものである。
取引は、当事者がどちらも利益を得られる。
その為の支払いはあっても、それは不当と言えない範疇になるだろう。
だが、悪事や犯罪はそうではない。
利益を手に入れる者と、損失を被る者の両者に分かれる。
大雑把な分け方であろうが、大別すればこうなるだろう。
それは搾取と言って良いものである。
この搾取をした者から少しでも取り上げたものを取り返し、被害者に戻す。
犯罪の捜査やそれへの処罰というのは、そうしたものであろう。
少なくとも損失の補填という面を多少はもってるものだ。
その為にも、やらかしたものへの追及をせねばならない。
しかし、それを止められてしまうのだ。
ヒロミの言う。
「可哀相」
という言葉で。
この場合、泣き寝入りを強いられるのは、被害者である。
悪事を働いた連中への追及と糾弾を止められるのだから。
それによる損失の補填もままならない。
受けた損害はそのままに、何の回復もなされないで終わってしまう。
また、悪事を働いた方が利になるという事にもなる。
どれほど悪さをしても、一定のところでその追及が止まるという事になるのだから。
この場合、悪事を働いていた方は、当事者を差し出せばそれで全てが終わる。
権勢も財産も取り上げられる事無く残る。
だったら、悪さをした方がよっぽど利益になる。
実際、差し引きで考えれば、縁者は利益を得ている。
被害者の損失はそのままだというのに。
なので、ヒロミの訪問には相当な効果があった。
しかも、表向きは窮地を助ける善人として振る舞う事が出来る。
実際には、被害者に何の補填もさせないでいるというのに。
悪事の糾弾を途中で終わらせるというのに。
今回の事件も、事の当事者として捕らえられた者だけが問題なのか分からない。
家の意向で参加していた者もいるはずである。
組織の運営側にはそういった者もいるだろう。
そうなれば、指示を出した者にも追及が及ぶのが当然である。
そういった者達への追及も、ヒロミが出た時点で止まってしまう。
それが分かっているから、ヒロミは加害者側の家を巡っていく。
「今回は大変な事になってしまいましたね」
と声をかけるだけで。
それだけで相手に恩を売り、自分の派閥の結束を強める事が出来る。
役職から外されるのは避けられないが、貴族達を取り込む事が出来るようになる。
そうして、とりあえず数を集める事が出来る。
当面は烏合の衆であろうが、それでも数は力になる。
いずれ、それなりの立場に復帰する事もあるかもしれない。
あるいは、使いやすい鉄砲玉に出来るかもしれない。
単純な投票数として勘定できるかもしれない。
それなりに利用価値はある。
そんな者達をヒロミは簡単に手に入れる事が出来る。
「そんな訳なので、これから皆様の所を訪問しようと思うのです」
取り巻き達にそう言って軽く頭を下げる。
「皆様をお呼びしておいて申し訳ありませんが」
「いいえ、いいえ!」
「素晴らしいお心です」
「ヒロミ様、それでしたら私も是非」
「私も、叶うならお伴を」
「ヒロミ様と共に」
「まあ……」
ヒロミはそんな取り巻きの申し出に嬉しそうな顔をする。
「それでは皆さん、ご都合がつく時にはご一緒を願い出来るかしら?」
「はい、もちろんです!」
取り巻き達は声を揃えて返事をした。
それをヒロミは嬉しそうに見つめる。
──これで共犯者が増えたと。




