184回目 とりあえず一発やってみて様子を見る 3
「さあさあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。
昨日、ここで響き渡った不思議な声。
あれの言ってる事をまとめてきたよ!
ほーらほーら、ここに書き記した内容が、聞き取った話の中身がここにある。
興味があるなら持ってきな。
一枚銅貨100枚でもっていけ!」
威勢の良い声があがる。
そんなあおり文句を口にする男は、手にした紙を道行く皆に見えるようにかざしていく。
それを道行く者達が手にして買っていく。
そこには、この日の前に大音量で流れた声の内容が書かれていた。
ばらまかれていたのはチラシである。
それも有料で配布されるものだ。
性質としては新聞に近いものがあるかもしれない。
とはいえ、情報量は紙一枚、情報量もそれほど多くはない。
それでも、情報伝達に時間のかかるこの世界では、貴重な情報源だった。
今は当然ながら、前日に突如流れた声の内容になっている。
そこには、聞き取る事が出来た内容がずらっと書かれていた。
内容に興味のあった者達がそれを手にしていく。
もちろんこれはトモルが用意したものである。
声を流すだけでは内容が全て伝わることはない。
どうしても全部を聞いてる者はそう多くはないからだ。
だから、事前に用意したチラシで、事の詳細を伝える事にした。
だから内容の正確さは確実だ。
何せ、事を起こした張本人が作ったのだから。
それが各地の町でばら撒かれていく。
行商人や旅芸人などによって、あちこちの町に流れていく。
そうして各地に話題を提供していった。
自分の生まれ育った所で人生を終えるのが普通の世界だ。
その外の出来事に興味を持つ者は多い。
それが娯楽になる世界だ。
話題に乏しいから、ちょっとした事件でも大騒ぎに発展する事もある。
そんな所に投入された、ありえないようなとんでもない大事件である。
目にした誰もが興味を抱いた。
加えて旅芸人や旅の演劇団、吟遊詩人などによって、この内容が流布されていく。
もちろんトモルがネタの提供をしている。
この内容を拡散する為に謝礼も払っている。
そうまでする程に、彼等の存在も大きなものがあった。
チラシが新聞なら、こうした旅芸人などはラジオやテレビのようなものである。
文字だけでは伝え切れない部分を、声や歌、演劇という形で伝えてくれる。
識字率はそれなりに高いが、文字を読めない者もいる。
例え読めても、文章では伝わりにくいものもある。
そこを、歌や劇という形で伝えてもらう。
こういう形の方が、面白おかしく眺めながら理解してもらう事が出来る。
もちろんネタの提供や、台本や脚本はトモルの方で用意した。
それをそのまま用いる事は出来ないだろうが、実演するさいの土台にしてもらえば良かった。
こうして、土台となる話があちこちに流されていった。
もちろん、これだけで全てが終わるわけではない。
話題が盛り上がるためには、継続した情報の追加も必要である。
それもトモルは実施していった。
各貴族の家から。




