183回目 とりあえず一発やってみて様子を見る 2
学校の外でも、設置されてる拡声器によって事の次第が伝えられていった。
行政区分で言えば都道府県にあたる地域の中心地に、県庁所在地全体に。
さすがにありとあらゆる所に……というわけにはいかなかったが。
それでも人が集まる主要な場所には、通信と音響の魔術機具によってカオリの声がひろがっていった。
最初は何だと思って聞いていた者達も、その内容に次第に耳を傾けていく。
もちろんすぐに治安関係の衛兵がやってきて、それらを撤去しようとする。
事の善悪や理非はともかく、勝手に許可を得てないものを設置してるので撤去にきたのだ。
だが、それらも待機していた冒険者達によって阻まれてていく。
また、周囲に潜んでいた扇動員によって、集まっていた聴衆が動き出す。
「今大事なことを言ってる最中だ!」
「警察は引っ込んでいろ!」
周囲からわき起こるそういった声に囲まれ、さしもの警察も静観せざるをえなくなっていく。
与えられた職務や公務遂行のための権限を用いれば、周囲にいる者達を逮捕する事は出来る。
だが、それを実行するだけの力があるかというとそうでもない。
数は周囲にいる聴衆の方が多い。
それらが襲いかかってきたら警察であってもどうにもならない。
それくらい周囲にいる者達は気色ばんでいる。
殺気立ってると言って良い。
音響装置から流れて来る内容を聞いていれば、そうなるのも当然ではあったのだろう。
「なんなんだ、これって」
「なんか、学校で娘っ子に体を売らせてたらしいぞ」
「はあ?
学校でか?」
「ああ、そんな事をしてたって言ってた」
「そりゃあ…………ひでえな」
「だろ?
で、今はそれに関係していた連中をあげてるらしい」
「はあ、そんな事までしてんのか」
「ああ。
それも、なんか偉い貴族様がいっぱい出てるようでよ。
ほれ、ここの領主の名前とかも出てぞ」
「はえ?!
「嘘だろ、まさか……!」
「それが、本当でよ。
まあ、黙って聞いてりゃそれも分かるって」
そう言って内容に疑問を持っていた者達が静かに音響装置に耳を傾けていく。
解説する扇動員達によって情報を補填されながら。
町のあちこちでそんな事が起こっていき、物議を醸し出していく。
集まった聴衆は聴いた話を、あるいは真剣に、あるいは面白おかしく拡散していく。
新聞やテレビ、インターネットなどが無い世界だ。
拡散は人の口伝いになる。
情報の信憑性や正確さなど望むべくもない。
だが、そうして伝わってくる話題を人は求める。
新たな話題、新たな面白い出来事。
そんなものを人は常に求めて、飛びついていく。
それが事実や真実で無くてもよい。
いつもと変わらない日々に何かしらの彩りを添えてくれるならば、それを楽しんでいく。
結局のところ、それらを聞いたところで何がどうなるわけでもない。
どこでどんな酷い事があろうと、どこで何がどうなろうと、世間が変わるわけではない。
生活が良くなるわけではない。
少なくとも自分に直接影響が出ることはほとんどない。
世の中は何も変わらず、今まで通りに何もかもが進んでいく。
話を聞いた一般の者達がどう思い何を考えようとも、それが反映される事などない。
聞こえてきたのが、自分と関係のない回想の事なら特に。
それが身分社会というものだ。
だからこそ、何の気負いもなく流れてきたお話を楽しむ事が出来る。
どれだけ愚痴や暴言や妄言を吐こうとも、それらの責任を取る必要などもない。
聞いた話で楽しめればそれで充分である。
この気軽さもあって、話は様々なところに拡散されていく。
こんな酷い事があったんだと。
そんな噂話も、数日もすれば鮮度が落ちる。
同じ事を何度も話題にするのもあほらしい。
だんだんと飽きていく。
一時的な熱狂は決して長続きしない。
どんなに騒いだとしても、賞味期限がくればそれで終わりである。
人々は、拡声器によって響き渡った声の事を忘れて、いつもの日常に戻っていく。
なのでトモルは、その後の対応もしていた。




