180回目 出来上がった流れがより大きな状態を作り出していく 10
様々な事をしているうちに新学期が終わる。
間に短い冬期休暇をはさみ、最終学期に移行していく。
その間に情報を集められるだけ集め、動かせる箇所は動かし、都合の良い状態を作っていく。
それほど大きな事は出来ないが、それでも出来る事は増えているのを感じていった。
トモルの実家の柊家の方も勢力を増しており、冒険者も商売人も実家も規模を拡大している。
質が伴ってるとは言い難いが、それは時間をかけるしかない部分である。
どうにかこうにか平常運転を続けてるだけでも今は御の字であろう。
村を三つほど預かってるだけの小さな所帯が急拡大したのだ。
やるべき仕事が空転してないだけでも奇跡である。
冒険者も数が揃い、レベルが上がり、ようやくダンジョンに到達する者達があらわれてきていた。
内部に突入するには至ってないが、そこから出てくるものを駆逐するようにはなっている。
おかげで、周辺に出没するモンスターが幾らか減っていった。
モンスターはダンジョンから生まれて外に出てくる。
それを出入り口で押さえ込めば、当然ながら周辺にモンスターがひろがる事は無い。
もちろんそれだけでモンスターそのものが消えるわけではない。
他のダンジョンから溢れてくるモンスターによって、周辺地域にはモンスターが蔓延る事になっている。
それでも、ダンジョン一つをせき止めてる効果は出ていた。
柊領でのモンスター被害が減るほどには。
その安全が、より多くの商売人を呼び込む事にもなった。
開店が続き、物資や娯楽が増えていく。
冒険者用の道具をあつらえる職人もやってきて、産業も興るようになっていた。
どれもが出店のような小さな店ばかりではある。
だが、それでも村の外れは賑やかになっていった。
村の方も、確保された安全圏に水路を造り、土地を切り開いて田畑を増設していく。
冒険者や商人がもたらす税収により、二期作や二毛作をしないでも費用が確保出来たのが大きかった。
莫大な増収のほとんどを費やし、村から人手を集めて耕作地を増やしていく。
春からは、新たな田畑を耕す家が増える事になるだろう。
その田畑の所有権で村人が互いににらみ合う事にもなっているが。
それでも、田畑の拡大そのものに異を唱える者はいない。
田畑が増えればそれだけ豊かになる。
そんな単純で当たり前の事実を拒否するほど愚かではなかった。
結局、新規の田畑を誰に渡すかは、領主が決める事で決着がついた。
面倒を領主に丸投げしたともいう。
それはそれで、頭の痛い問題が増えたわけなので、トモルの父はため息を連発する事になった。
これの解決にはそれなりの時間と、それに伴う話し合い(というか怒鳴りあい)によってなされていく。
そこに殴り合いも含まれていたのは言うまでもない。
殺し合いにならなかっただけ僥倖というべきである。
そんな柊領との結びつきを求めて他の貴族もすりよってくる。
それらを適当にあしらいながらも、適切な家とは結びつきを強めていく。
柊領は行政の人材と、消費される物資の供給源を求めて。
すり寄ってくる者達は、家にいる部屋住みの厄介払いと、領地で収穫されたものの消費地を求めて。
それぞれの利害が程よく一致していく中で、緩やかに連帯が組まれていく。
これらは概ねトモルの求めた通りになっていった。
そして、これらを土台にして、トモルは更にあちこちに手を伸ばしていく事が出来た。




