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18回目 下手に探りをいれるような事をしないのも、大人の智慧なのでしょう 2

 後ろから迫ってくる存在を振り切るのは簡単だった。

 丈の高い草の中、姿をくらますのは容易い。 

 だからこそ、引き寄せるために付かず離れずの距離を保つのが難しい。

 しかも子供の足である。

 なかなか先に進まないから、引き離す予定地点までが長い。



(バッタが出てきたらどうしよう)

 本気でそんな心配をしてしまう。

 普段ならさっさと見つけてどうにかしてやろうというつもりになるが、今はそんな事言ってる場合ではない。

 何せ後ろに正体不明の誰かがついてきている。

 それを巻き込むわけにはいかない。

 なお、探知魔術の反応の大きさから、相手がさほど大きくはない、おそらくは子供である事を察してはいる。



(まあ、子供並の大きさのモンスターかもしれんけど)

 いわゆる小鬼と呼ばれる類がこれにあたる。

 それでも身長120センチから140センチくらいはあるので、厳密に考えると子供並というわけではない。

 十歳前後の子供と比べれば、確かに同等の大きさではあるのだろうが。

 今のトモルに比べればずっと大きいし危険な存在である。



 ただ、反応の大きさから、それよりも更に小さいと分かってるので、モンスター以外の可能性も考えている。

(何にせよ、もう少し村から引き離さないと)

 足を相手に合わせ、時間をかけて誘導をしていく。

 出来るだけ悟られないようにしながら。



 背後をつけてる行商人の娘は、ついていくのがやっとだった。

 相手は自分と同じくらいの年頃の男の子であるが、歩き慣れてるのか進むのが速い。

 どうにかして追いついていってるが、彼女の脚力では引き離されないようにするのがやっとだ。

 おかげで自分がどこまで来てるのか、どれほど村から離れたのかも気づいてない。



 だんだんと引き返すのが困難なほど離れてるのだが、そんな事考える余裕もなくなっている。

 ただひたすらに前を歩くトモルの後ろについていく事だけを考えている。



(どこまで行くのよ)

 そんな事を思いながらもどうにかしてついていく。

 自分の父と何かしらのやりとりをしていた目の前の少年に。

 だが、その姿がある瞬間に完全に見えなくなった。

 いったい何が、と思ったが、それでもまだ気づかれないように気をつけながら歩いていく。



 幸い、草を踏みつけた跡があるので、まだ何とか追跡は出来る。

 しかし、時間と共にそれも見つけにくくなっていく。

 やむなく彼女は、急ぎ足で先へと進んでいこうとした。

 しかし、丈の高い草は簡単に前に進ませてくれず、彼女の足どころか体を押しのけようとしてくる。

 草むらの中を進んで行くというのは、これで存外体力を必要とする。

 子供の体力でそこを突破するのは非常に難しいものがあった。



 やがて完全に姿を見失い、草の中の足跡も見つけにくくなっていく。

 ここに来て彼女は、自分がどこにいるのか、どれほど遠くまで来たのかについて考えた。

 トモルを追いかけてきたのは良いが、それだけしか考えておらず、帰りはどうするのかといった事は全く考えてなかった。

 浅はかと言えば浅はかだが、子供だけに仕方のないところではある。

 だが、それが彼女の現状を救うものでないのも確かだった。



 見失ったトモルの姿を諦め、彼女は自分の来た道を振り返る。

 そこには、かすかにトモルと彼女が通った跡が残ってる。

 しかし、それが今どのくらい残ってるのか分からない。

 来た道を戻るにしても、はたして元の場所に戻れるのか分からない。

 彼女はここに来てかなりまずい事態に陥ってる事を理解した。



(どうしよう)

 どうする事も出来ないが、やるとしたら二つ。

 このままトモルを追いかけていく。

 来た道を何とか戻るか。

 そのどちらかである。



 ただ、どちらを選ぶにしろ、かなり厳しい状況になるだろう事は、彼女の幼い頭でも何となく察していた。

 そのどちらを選んで良いのか分からず、彼女はその場で立ち尽くした。

 ある意味、それが一番最悪の選択であったかもしれない。

 追いかけるにしろ戻るにしろ、すぐに行動に移せば、まだ痕跡が残っているだろう。



 しかし、時間の経過と共にそれらはだんだんと消えていく可能性がある。

 そこで立ち止まってる事の方がよっぽど危険であるかもしれなかった。

 そうでなくてもモンスターが蔓延る地域である。

 最近はトモルのおかげでかなり姿を消したが、壊滅したわけではない。

 どこから襲ってくるか分からないのだ。



 可能であるなら、この場から逃げ出し、村に戻るのが賢明であろう。

 なのだが、そんな事を思いつくわけもなく、彼女はどうしようと泣きそうな顔で立ち尽くすだけだった。



 追跡者を引き離し、ぐるっと大きな円を描くように動いていく。

 そして元の道というか、自分と追跡者が歩いてきた道に戻り、追跡者の背後に回っていく。

 相手がどんな奴なのかを確かめるために、必要ならば処分をするために接近していく。

(上手くやらないとな……)

 相手が何者か分からないが、それなりの能力を持つ者なら手間がかかる。

 正面からやりあっても勝てる可能性は低い。



 いくらレベルを上げ、技術を高めてると言ってもトモルはまだ子供である。

 そうそう簡単に相手を凌ぐ事ができるとは思わない。

 可能性があるなら、奇襲をかけて一気にたたみかける事である。

 これが出来れば、不利な状況を多少は覆せるかもしれない。



 ただし、奇襲は最初の一撃だけしか効果がない。

 そこで止めを刺せなければ、次にやられるのは自分になる。

 なので慎重に相手を振り切り、追い詰め、そして大胆に襲撃をかける。

(どこの誰か知らないけど、覚悟してくれよ)

 相手の意図や思惑が分からない、余計な事を考えてるようなら、即座に叩きつぶすしかない。



 もっとも、そんな事をするような者がいるとは思えない。

 おおかた、トモルの親が子供の行動を監視するために、誰かに尾行させてるのだろう……と思っていた。

(だとすると、どうしたもんか)

 まさか危害を加えるわけにはいかないので、対処をどうするか考えてしまう。

(まあ、光で目を潰すしかないか)

 いつも通りの手段で、とりあえず相手の動きを封じる事にする。

 その後の事は、それから考える事にした。



(そんじゃ、いきますよー)

 顔をタオルでおおい、傍目には誰だか分からなくする。

 体格から子供であるのはすぐにばれるだろうが、それでもどこの誰か分からないようにしておこうと思った。

 そした準備をしてから、相手のいるあたりに閃光を発生させる。

「きゃっ!」

 悲鳴があがった。

 その声を聞いてトモルは「あれ?」と思った。



(なんだ、今の悲鳴)

 どう考えても女の子のものだった。

 あるいは、小さな男の子であろうか。

 どっちにしろ、トモルが懸念するような危険な存在とは思えない。

 どうなってんだと思いながら悲鳴の出てきたあたりへ向かう。

 そこで、予想外の存在を見る事になる。



(まさかなあ……)

 女の子だとは思わなかった。

 しかも見知った存在である。

(行商人の子供か……)

 話をしたりといった間柄ではないが、行商人と一緒なのでおぼえていた。

 それに、モンスターに襲われてるところで見たので記憶は鮮明である。

 見間違いという事はまずあえりえない。



(なんでここにいるんだ?)

 当然の疑問が出てくるが、今はそれどころではない。

 とりあえず周囲にモンスターがいないかを魔術で確かめて、その場から撤退していく。

(まずは事情を聞かないと)

 手を引いて草むらの中を突っ切りながらこれからの事を考える。

 相手が何を考えてるのか分からないが、ここまで来たのだから何か考えがあるのだろう。

 子供なので大したものではないだろうが、そこを聞き出しておかねばならない。

 それに、何らかの形で口封じもしなくてはならない。



(なんとか上手く出来ればいいけど)

 正直自信はない。

 だが、やらねばあちこちに吹聴されるかもしれない。

 そこをどうするか考えていく。



(なんか良い方法はないかな)

 すぐには浮かんでこなかったが。

 それでも、まずはこの場から離れる事を優先していった。

 モンスターが出回る場所ではおちついて話も出来ない。

(今日の経験値はお預けか)

 それだけが残念だった。

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