171回目 出来上がった流れがより大きな状態を作り出していく
着々とするべき事を進めていく。
歩みは遅くても、積み重ねて成果は結果をもたらしていく。
柊家の領地にはその後も順調に冒険者が流れこみ、モンスターの駆除を続けていく。
トモルが作った道路と、それに沿って設置された避難所が活動拠点となっていた。
その先にあるダンジョンまではまだ到達してないが、いずれはそこに到達する事になるだろう。
それまでは中継地点でもある避難所で冒険者達は活動を続ける事になる。
これらの活動拠点を相手にする商売も始まっていった。
行商人の中にはそこに店を開くものも出てきている。
自然と避難所も逗留可能な状態になっていき、常時冒険者がはりこむようになっていった。
悩みなのは、道中にモンスターが出没する事である。
それが物資の輸送を妨げる事になってしまう。
とはいえ、周辺でモンスターを倒してる冒険者によって最低限の安全は保たれてもいる。
そこを進むかどうかは、商人達の度胸次第となっていた。
ここで度胸を示せた商人が、避難所にいる冒険者相手に儲ける事になっていく。
途中で襲撃を受けなければ。
変わってるのは、街道沿いの避難所ではモンスターの核が通貨代わりになってる事だ。
一々金銭を持ち込むのも面倒くさいからだ。
それよりは核を直接手渡した方が楽である。
商人もその方がやりやすい。
ただ、正確な交換比率などはあまり考慮されない。
すさまじいボッタクリはさすがに無いが。
それでも、かなり大雑把な値段設定(と言って良いのかどうか)で取引がされる。
そうするしかないのだ。
核の値段は核が保有してる魔力などによって上下する。
それほど極端な差はないが、一つ一つの価値にはばらつきがある。
なので、正確に魔力を計測しないと、換金はできない。
しかし、そんな事を一々やってるのも手間で面倒だ。
これを踏まえて、「まあ、これくらいの値段だろう」と核の価値を見定めて取引がされている。
その分、物品の値段は若干上乗せされている。
その上乗せ分で、核の価値の差を埋めてるのだ。
だが、これで文句を言うような冒険者はいない。
多少、値段が上がってもだ。
核ならそこらのモンスターから幾らでも手にいれる事が出来る。
それに、上乗せしてると言っても酷いボッタクリというわけでもない。
多少の上乗せはあったとしても、二倍三倍というほど値上がりしてるわけではない。
そもそも、モンスターの出没する所に出向いてくるのだ。
その分の苦労も考慮しなくてはならない。
少しくらいの値上がりは仕方が無い。
護衛なども必要なので、その費用が上乗せされるからだ。
それを考えれば良心的な値段設定がされている。
商人達はそれほど値段を跳ね上げさせたりしてない。
阿漕な事は出来ないという彼等の商売道徳によるもの……というだけではない。
それもあるにはあるのだが、大きな理由はそこではない。
無駄に競合相手を増やさない、参入させないためである。
買い手の足元を見て値段を跳ね上げれば、それを見て安売りを仕掛ける者も出てくる。
そういう商売の競争を下手に起こさせないために、値段設定はほどほどのものにされていた。
この危険地帯にはそういう競争相手が結構いる。
商売免許が必要な町と違い、ここには誰でも参入出来る。
だから町で商売が出来ない多くの行商人がやってきている。
下手に値段をつり上げれば、そういった競争相手の利になるだけだ。
強気の商売などなかなか出来る事では無かった。
また、値段を下げておけば、新規参入も少なくなる。
値段を抑えておけば、一回の売買で得られる利益はそれほどでもなくなる。
そうなると初期投資分を回収するのに手間と時間がかかる。
こうする事で、下手に新規参入を増やさないようにしているのだ。
誰でも好き勝手に商売が出来るという状況だからこそ、下手な事は誰も出来ないでいた。
これらが商人達の結託を阻害してもいた。
何人かの商人が値段を一定のあたりに留めるよう決めたとしても、新たにやってくる商人がそれらを打ち壊すからだ。
つまり、値段などの設定において、買い手が損をするような事はなかなか出来ない。
自然と商人達が利益を確保出来て、客が納得出来るあたりの値段に落ち着くしかなかった。
その結果として、比較的良心的な価格設定がなされていった。
客を大切にするという商売道徳のようなものも生まれていく。
競争相手に客を取られないようにするにはそうするしかない。
打算と妥協の産物である。
それでも、利用者である客からすればありがたいものではあった。
結果として商売道徳のようなものが醸し出されていった。




