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17回目 下手に探りをいれるような事をしないのも、大人の智慧なのでしょう

 その後、行商人は村に到着し、いつも通り商売を開始していく。

 しかし、途中でモンスターに襲われた事により、一部の商品は破損。

 期待していた物が手に入らない事に一部の者達ががっかりした。



「モンスターに襲われたんならしょうがないか」

「むしろ、よく生きてたもんだよ」

 相手によるが、モンスターに襲われたらただではすまない、というのが共通認識である。

 相手が一匹二匹ならともかく、まとまって襲ってきたなら命を失うのはほぼ確実と言われている。

 それを生き残ったというのだから、誰もが運が良いと思った。

 また、それが行商人の嘘ではないというのも、馬車に残ってる傷跡が証明している。



「こんだけ酷い目にあって生きてたのか……」

 運の良さもあるだろうが、必死になって撃退したのだから誰も文句は言わなかった。

 こんな状態であってもなお村に来てくれただけでもありがたいと思うくらいである。

「でも、どうやって乗り切ったんだ?」

 当然ながら皆の興味はそこへと向かっていく。

 生きてるのが不思議なくらいの状況である。

 どうやってくぐり抜けたのかは誰もが知りたがった。



「それがなあ……」

 聞かれた行商人は素直に答えていくのだが、歯切れが悪い。

「俺らも襲われて、もう駄目だと思って倒れたもんだから、何がどうなったのか分からんのよ」

 それが彼等の答えの全てだった。



「なんか、凄い羽音が聞こえて、『あ、これはまずい』って思ったんだわ。

 そしたら横から大量にバッタが飛び出してきてな。

 何とか叩きのめそうと思ったんだけど、数が多くてそうもいかなくて。

 で、どうしようもなくなってな。

 全身囓られて、もう駄目だなって気を失っちまったんだ」

「それで、どうなったのか分からないと?」

「そういう事だ」

 嘘は言ってない。

 確かにその通りである。



「でも、怪我なんてしてないじゃないか」

「そうなんだよな。

 服はボロボロになってたんだが、どういうわけか傷はなくなっててな。

 本当に、何がどうなってんだか」

 意識を取り戻した時には、荒らされた馬車と、そこかしこに残るバッタの通った跡があった。

 しかし、当のバッタはどこにもいなかった。

「本当に、何があったんだか」

 とにかく謎が疑問として残っていった。



 とはいえ、行商人はある程度目星をつけていた。

 この時期、冒険者を雇ってるのでもなければ、こんな事が出来そうなのは一人だけだと。

(たぶん、坊ちゃんなんだろうなあ)

 モンスターの核を売りさばきに来るのは、この近隣では領主の息子のトモルだけである。

 それも一つ二つではない、かなりの量を一気に持ってくる。

 それを換金して、鉈や手斧などを買っていくのだから、おそらく何かをしてるのだろうとは思った。



 だが、それを口にする事は無い。

 下手に口を出せばやぶ蛇になる可能性がある。

 そんな危険をおかすつもりはなかった。

 まして相手は、大量のバッタを一気に倒したかもしれない人物である。

 下手に機嫌を損ねたらどうなるか分かったものではない。

 相手が領主の息子であるという事を差し引いても、大量のモンスターを撃退出来る手練れであるという事は残る。

 そんな者の不興を買うほど行商人は愚かではなかった。



(何か考えがあるんだろうなあ……)

 それが何であるのかは分からないが、行商人にとってはどうでも良い事である。

 直接被害にあうのでもなければ、無闇に首をつっこんだり手を出したりはしない。

 そういう慎重さが行商人をこれまで生きながらえさせてきた。

 今それを覆すわけにはいかない。

 折角拾った命もあるのだから。



(本人が話すつもりになるまで、黙っておく事にするか)

 実際、確証のない話である。

 知らぬ存ぜぬを通すにしても、それが嘘というわけではない。

 分からない事を分からないとしてるだけなので、何が問題というわけでもなかった。



 そんな行商人の所に、トモルはいつも通りに出向き、いつものようにモンスターの核を差し出していく。

「お願いします」

「はいよ」

 人の目につかないところで手渡したそれを、行商人は受け取り、受け渡しはとりあえず一旦区切りがつく。

 それから滞在中の適当なところで代金を行商人に渡していく。

 人目を憚る事なので、取引は慎重なものとなっていた。



「毎度あり」

「今後ともごひいきに」

 交わす言葉はそれくらい。

 あとは知らぬ存ぜぬを貫き通す。

 繋がりと取引がばれても良い事など無い。

 接触は短く、基本は他人のふり。



 それが二人がいつのまにか作り上げた不文律だった。

 この日もトモルは代金を受け取り、それを今後の活動資金としていく。

 行商人は町で売りさばくためのモンスターの核を手に入れていく。

 両者共に損のない取引である。

 それが出来ればそれで良いので、それ以外については何も語らずにいた。



 運が良いのか悪いのか。

 あるいはご都合主義なのか。

 そんな二人のやり取りをたまたま見ている者がいた。

(あれって、お父さんと……お坊ちゃん……だよね?)

 行商人の娘は、人の目を盗んで動く父の後を追って、二人の取引現場を目撃した。

 なぜか父から袋をトモルが受け取ってる場面である。

 何のために、どうして、という疑問が浮かんでくる。



(そう言えば)

 なんでだろうと思っていたら、昨日一昨日のことを思い出した。

 確か、人の気配が無くなってきた頃に父がどこかに出かけ、大きめの袋を持って帰ってくるのを見た。

 人の目に付かないよう気をつけていたようだが、物陰に隠れていた彼女には気づかなかったようだ。



 先日のモンスターの襲撃以来、外に出るのが少し怖くなっていた彼女は、商品や馬車の陰に隠れる事が多くなっていた。

 またどこからか何かが襲ってきたら、と思うと気が気でない。

 心配のしすぎであるが、襲われた直後なのでそれも仕方のない事であった。

 周りの者達もそう思ってそっとしておいている。

 それが功を奏したのだろうか。

 まさか父も、近くに娘が潜んでるとは思ってなかったようで、特に警戒する事無く彼女の近くを通り過ぎていった。



(あれが、何か関係あるのかな)

 何がどうなってるのかはまだ幼い女の子には分からない。

 だが、何かしら関係があるのではないかと直観が囁いてくる。

 それがどういったものなのかは分からないが、何かとても気になった。

 子供らしい好奇心である。

(よーし)



 翌日。

 トモルはいつものように村の外へと向かっていった。

 先日の一件でかなりの稼ぎになったが、まだまだ足りない。

 金銭的な報酬はとりあえずどうでも良いが、レベルはどんどん上げていきたい。

 金もいずれは必要になるが、今はまだ後回しに出来る。

 何よりも資本である能力をとにかく鍛えておきたかった。

 その為のモンスター退治である。



 今日も今日とて、村の外れまで出向き、いつものように探知魔術を使ってモンスターの居所を探る。

 最近は近場にいなくなったものだから、ある程度遠出しないと見つからないが、それでも近くに何かいないかを探るようにしていた。

 万が一田畑の近くにまで来ていたら、村に被害が出てしまう。

 それだけは避けねばならなかった。



(将来俺のものになるのに、傷を付けられてたまるか)

 そんな欲得まみれの理由であったが、誰かの利益になるし、モンスター以外に被害にあう者もいないのだから問題はあるまい。

 そして、この日の探知魔術には、予想もしてない反応が出てきた。



(……なんで近くに人間の反応があるんだ?)

 あえて気づかないふりをしてるが、トモルの探知魔術はすぐ近くに潜んでる誰かの存在を把握していた。

 いったい誰が、と思うが今はそれを無視して先に進む事にする。

 何かを聞き出すにしても、ここでやるのは都合が悪い。



(もっと人の気配の無い所まで連れていかないと)

 果たしてそこまで追跡してくれるかどうか疑問であるが、ここであれこれ悩んでるより良い。

(叫び声が聞こえないくらいの所まで連れていければいいけど)

 なかなかにアコギな事を考えながら、トモルは装備を身につけて草原へと向かっていった。



 その後ろを、行商人の娘は必死になってついていった。

 出来るだけ気づかれないように気をつけながら。

 残念ながら、それは魔術を使うまでもなく見え見えのバレバレであった。

 足音も、草をかき分けて進む音も、トモルには聞こえている。

 魔術に頼らなくても、『発見/探知』の技術を持つトモルを欺く事が出来るほどではなかった。



 そんな彼女は、知らず知らずトモルに誘導されて、村から引き離されていく。

 トモルの後ろ姿を見失わないよう必死な彼女には、そんな事はまったく分かってもいなかった。



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