153回目 この状況とこの手札で出来る事はなんだろう 7
翌日もトモルは冒険者を輸送していった。
数回の往復で100人ほど増えた。
これによりトモルの近隣には村よりも大きな集団が居着く事になった。
当面はこれで打ち止めにする事にした。
これ以上増やしても、冒険者が溢れるだけである。
街道沿いの避難所に常駐するようになれば状況も変わるが、そうなるまで時間がかかる。
なにせ避難所は人が住めるような状態ではない。
魔術で盛り上げた土が壁になってるだけ。
そこには住居も何もないのだ。
水すら引いてはいない。
いずれ水路をつくり、飲用水も確保するつもりではいる。
しかし、それはまだまだ先の話。
そんな所にこれ以上冒険者を連れてきても、人があふれるだけだ。
商人達の方も似たようなものである。
今のところは現状の人数や規模で充分であった。
これ以上商人を増やしても、無駄に競争が激化するだけだ。
そうなったら、共倒れの危険もある。
冒険者の人数や商人が持ち込む商品。
その取引の具合を見ても、今はこの人数で充分だろうとトモルは考えていた。
それに、もし今より必要になるなら、商人達が自分で人を引っ張ってきてもらいたいとも思っていた。
そんな彼等には、仮面をつけた状態で伝えてある。
「人が欲しいなら、この場所で余ってるから連れてきてやってくれ」
他の商人はともかく、ここで活動していた行商人は人がまだあぶれてる事を知らない。
それらがどこにいるのかも。
それを伝えておかないと今後更に人が必要になった時に困るだろうと思ったのだ。
ついでに言えば、失業対策というのもある。
商人や従業員達の失業理由を作ってるだけに、少しはその後始末をしておきたかった。
「あと、職人とかもあぶれてるから。
もし良かったら抱えてやってくれ」
「はあ……」
突然やってきた仮面の者にそう言われて行商人も困惑する。
何故自分の所にそんな話を持ってくるのかというところだ。
「商売をこれから手広く拡げるなら必要になるだろうからな」
それだけ伝えてトモルは行商人の所から立ち去った。
あとは彼がどうするかである。
長い馴染みなので、出来れば上手くいってもらいたいとは思う。
なのだが、それは行商人の才覚次第である。
トモルがどうにか出来る事ではなかった。
それに、トモルにとって大事な事はまだこの先にある。
冷酷かもしれないが、行商人にそれほどいれこんでる暇もなかった。
そしてそれは、思ったよりは早くあらわれてきた。
その日の夕方、家に戻ったトモルは自宅の前に集まった村の者達を見る。
彼等は表情を硬くして父である領主に訴えていた。
その内容はトモルが求めていたものであった。
「最近、人が増えてるけど、大丈夫なんですかね?」
そんな声を聞いて、トモルは事が上手く進んでるのを感じた。




