15回目 戻ってきたくなかった鬱陶しい日々
色々と面倒や手間がかかった。
それでもやりたい事はどうにか終える事が出来た。
タケジというベンチマークというか比較対象を叩きのめした。
それで、現時点での能力がどの程度かも分かった。
確実に自分の力がこの年代の平均を上回っている。
その確証を得られたのは大きい。
ステータスに表示される数値の意味は未だによく分かってない。
けども、これでどの程度なのか目星はついた。
レベルアップもしてないであろう子供と比べれば、優れてるのは当たり前なのだが。
タケジを叩きのめしたのは、そう誇るような事ではないかも知れない。
が、そんな考えをすぐに振り捨てる。
(ここまで自分を鍛えたのは、他でもない俺の努力だ!)
これは事実としてそうなのだから間違ってはいない。
その努力の結果として、タケジとその取り巻きを叩きのめしたのである。
なので、そこまでの努力までは否定しない。
とはいえ、トモルの日常に変化があるわけではない。
相変わらず家の者達に内緒で外に出て、モンスターを倒して経験値を稼ぐ日々である。
多少の変化があるとすれば、時折やってくる行商人に、ため込んだ核を売るくらいだろうか。
それも小遣い欲しさでやってるのではなく、駄目になった鉈や手斧の代わりを購入する為だった。
行商人は、子供がいったいどうやってこんなものを手に入れたのか、と疑問を抱くが深くは追及しない。
相手は領主の息子である。
下手に藪をつついて余計な騒ぎになったら面倒である。
だから、何もしらず、商売の基本に徹する事にした。
取引出来る相手はお客様────至極簡単で単純で分かりやすい話である。
そこに含まれる様々な意味や派生的な考えなどについては、あえて目をつぶっていった。
おかげでトモルは、新しい武器や防具を手に入れる事が出来るようになっていった。
なお、使い古した道具などは、鋳つぶして新たな材料として再利用などもしていった。
それらは村の鍛冶の所に持っていって処理をしてもらった。
鍛冶屋も色々と考えはしたが、やはり余計な面倒に発展しないよう見て見ぬふりをした。
子供とはいえ、権力者の関係者を相手に余計なくちばしを突っ込むつもりはない。
そんなこんなで、モンスター退治関係については割と順調であった。
面倒なのはそれ以外である。
相も変わらぬ他の貴族の所への訪問などは、手間がかかる上に面倒が増えるだけであった。
同じ年頃の子供であっても、家の格の違いなどで差別をしてくるのは当たり前。
そうでなくても、仲間内の外から来た者など爪弾きが基本である。
親の前では多少仲良くしてる素振りを見せても、裏に回れば周りを囲んで喧嘩を売ってくるなど当たり前だった。
中には慇懃無礼を地でいくような態度を取る者達もいる。
なまじ分かりやすい態度を取らないだけに、反撃をしても被害者ぶられてしまう。
そんな質の悪いことをしでかすような連中が多い。
子供であってもこれくらいは普通にやる。
むしろ、こういう事を悪いと思わず平気でやってくるのが子供だ。
なのでトモルは遠慮無くやり返していった。
おかげでトモルはどこに行っても子供同士で馴染む事はなかった。
向こうから遠ざかっていくのだから当然である。
ただ、これはこれで願ったりかなったりであった。
煩わしい関係から解放されてありがたい。
今後の貴族同士の付き合いを考えると面倒だが。
それについては今後生まれてくる兄弟に丸投げする事にした。
幸い、弟も順調に育ってるようなので、今後の心配は無い。
これ以降も兄弟が量産されるとありがたいのだが、さすがにそこは両親のがんばり次第なのでどうにもならない。
一応事あるごとに、「もっと兄弟が欲しい」と子供らしく我が儘を言ってる。
しかし、家の経済状況なども絡んでくるので何とも言えない。
せいぜい、両親には夜中に汗水垂らして頑張ってもらうよう願うしかなかった。
そんな中でも貴族特有のイベントは進行していく。
だんだんと子供の婚約というような話も出てくる。
場末の辺境貴族であり、貧乏一歩手前の領主である柊家も例外ではない。
(おいおい)
現代日本の感覚をもつトモルは呆れてしまう。
(俺はまだ5歳か6歳の子供だぞ)
それはないだろ、と思うのだが親などは割と本気のようだった。
むしろ、これくらいの年齢で結婚相手が決まるなんて珍しくもない。
トモルの感覚からすると信じがたいが、貴族というのはそれが当たり前のようだった。
(狂ってやがる)
半分以上本気でそう思う。
(終わってる)
そうも思う。
だが、貴族の習わしというか風習というか慣例というかお約束事である。
回避や拒否などは出来そうにない。
その為、親や親戚などはトモルの相手探しに躍起になってる所があった。
(庄屋でいいじゃん、ウチならさ)
そうも思うのだが、親はそう考えてはいないようだった。
前々からトモルは思ってるが、家の格を考えれば、本当に庄屋あたりが適当なのが柊家である。
無理して貴族の相手を探す必要もないだろうに、などと思ってしまう。
(まあ、相手も貴族位をもってるだけの、実質平民なんだろうけど)
町の領主を務めるような者達の、親戚の親戚の親戚の親戚……といった家が相手だろう。
そのくらいが関の山であるし、お似合いではあった。
ただ、出来れば同じ年頃であってほしい。
最低限見れるだけの見た目と、許容できるだけの人格であってほしかった。
貴族の政略結婚であるのであまり高望みは出来ないが。
それでも人間としての最低限を保ってる人間が相手であるよう願った。
そういった身の回りの面倒事を他所に、トモルは可能な限り毎日モンスター退治に出かけていた。
少しでもレベルを上げるため、技術を磨く為に余念がない。
今後タケジの家が報復に出てくる可能性もある。
散々やりかえした貴族(の子供)の方から何かを仕掛けてくる可能性もある。
それらを撃退出来るだけの力が必要だった。
(強さがあれば何でも出来る)
それがタケジを叩きのめし、貴族のクソガキどもを泣かせてきて得た教訓である。
世の中、優しさや寛容さなどで成り立ってるわけではない。
力尽くで相手を従わせる事が出来る連中が主導権を握っている。
強ければ反撃もこない。
しようとすら思わせない。
思っても、それを自ら押しとどめていく。
その事をトモルはここまでの様々な件で学んだ。
だからこそ彼は、力を純粋に求めていった。
余計なちょっかいをかけられないように。
かけてきた馬鹿を容赦なく撃退出来るように。
その為にモンスターを叩きつぶして回っていった。
このモンスター退治のおかげなのか、最近の領内におけるモンスター被害が減っている。
害虫・害獣であったモンスターが減ってるのだから当然であろう。
それほど顕著な差が出ているわけではないが、例年よりは被害が少なくなっている。
ほんの少しであるが、年貢などの税収も例年よりは多くなるだろうと思われた。
その功労者は、この日もモンスターを探してあちこちをさまよっていた。
このたび新たに身につけた探知魔術を用いて、モンスターを探しながら。
技術として持ってる探知と合わせて、発見効率は格段に上昇し、モンスターをひたすらに倒していく。
ただ、人間の足では見つけても移動をするのが困難であった。
もっと手早く移動出来る手段が欲しくなっていた。
(そろそろ馬でももらうかな)
そんな大きな馬でなくて良い。
子供でも乗れるようなものがあればと思った。
(乗馬の訓練にもなるしな)
それが出来れば、今まで以上に行動範囲が拡がる。
より一層モンスターを倒して経験値を稼ぎ、レベルを上げていく事が出来る。
より奥地まで進んでモンスターを倒していく事が出来る。
(どうにか出来ないもんかな)
それだけ危険も増えるのであるが、その事を忘れてトモルは将来への展望を広げていった。