146回目 世の中そんなもんというだけの、ありふれたお話 3
モンスターを倒す為には冒険者が必要である。
より正確に言うならば、モンスター退治を専業とする者達が。
本来ならば軍隊がやるべき仕事なのだが、残念ながら兵力が足りない。
なので、やむなく冒険者という民間業者に任せている。
そして、これである程度世の中が上手く回ってる。
だから、モンスター対策としての軍勢の増強なども後回しにされる。
「民間でこなせてるなら、それでいいだろう。
政府や領主が手を出さなくても」
という話にもなる。
実際、これはこれで良い事ではあるのだろう。
軍を動かしたり、領主の兵士でモンスターを片付ける。
その財源は税金でまかなわれる。
なので、兵力の増強はなかなか難しい。
核を回収して売れば、その費用をまかなう事は出来る。
しかし、そうなると管理が面倒になる。
どうしても大がかりな組織が必要になる。
そこまでやるとなると、相当な人数が必要となる。
その維持費だけで莫大なものになる。
得られる利益と、必要経費。
それを考えると、はたしてそれが割に合うかどうか。
巨大化した組織は、切り盛りするのが大変なのだ。
それを考えると、どうしても尻込みしてしまう。
一番の問題は、そうした組織を運営出来る人材がなかなかいない事。
組織を作るにしても、この問題を解決するのが難しい。
だから政府にしろ領主にしろ、軍の増強などは及び腰になる。
そうなるならば、冒険者に好き勝手やらせておいた方がまだマシというものだ。
特に管理する必要があるわけではない。
それが問題になるのも確かだが、常に統率するよりは楽だ。
野放しにして治安が悪くなるのは問題になるが。
ただ、ここが悩ましい所である。
管理の手間はある。
だが、組織というのはやたらと拡大したがるものだ。
官僚機構などはその典型例である。
それに、貴族の食い扶持を確保するという名目もある。
管理が手間でも、軍備の増強を願う者もいる。
それにまつわる様々な組織が生まれるからだ。
冷や飯食いの部屋住み貴族達は、そういった新設部署を切実に望む。
そして、増大した組織というのは、無駄な仕事を増やす。
これも定番である。
どんなに不要になった仕事や部署でも、後生大事に残す。
無くしたら食い扶持が減るからだ。
かくて整理するべき部署は延々と残る。
そんな連中を抱えるとなると、必ず面倒も増える。
トモルはそういう組織や部署も必要だとは考えてる。
だが、お荷物を作りたいわけではない。
数だけは多くて、出費も多い。
そのくせ仕事はしない。
もし、領主のおかかえの軍勢を作ったら、こうなる可能性が高い。
やってくるのが、たいていは貴族や武家の子供になるからだ。
そんな貴族や武家の子供を危険なモンスター退治に送り出せるか?
出来るわけがない。
そんな事をしたら、彼らの家から文句が飛んでくる。
戦う事が仕事の軍勢なのにだ。
そんなわけで、動かすのにも気をつかう。
動かす為には大義名分が必要になる。
こういった理由で出動せねばならないと。
一々そんな事してるわけにはいかない。
なにせ、モンスターはいつもそこらに出没するのだから。
何より、戦死者が出たらそれだけでも手間と面倒が増える。
遺族への言い訳と見舞金。
死亡者の穴埋め、減った分の補充人員の確保。
それに施す訓練。
これらがどうしても必要になる。
そして、また面倒な貴族の家の子供がやってくる。
こうなってくると、冒険者の方がまだ使い勝手がよいという事になる。
なにせ、戦わなくては食いっぱぐれるのだ。
イヤでもモンスター退治に出かける。
思い通りに動いてくれるわけではなくても、それだけでありがたい。
募集すれば一応は集める事が出来るのも良い。
質はともかく、頭数が必要な時にはありがたい。
即座に人が欲しい現場からすれば、これだけでも充分な利点になる。
なので、トモルからすれば冒険者の確保は必要不可欠な事だ。
何はなくとも、モンスター退治に勤しんでくれるのだから。
そんなすぐに動いてくれる冒険者を追い出すわけにもいかない。
問題があるのは分かってるが、村に襲いかかるモンスターが減るのは確かなのだ。
その分だけ安全地帯が拡がり、田畑の拡大に乗り出す事も出来る。
これだけでも冒険者を留めておくだけの理由としては充分にある。
加えて、田畑で取れる収穫物の、最も近くにいる消費者でもある。
冒険者に食料を売ることで商売になってるのだ。
これを簡単に捨てる事が出来るわけがない。
村にとってもすぐ側にある売却先を失うのは痛手である。
もっとも、村に被害が出ればそんな利益などどうでも良くなるが。
当たり前だが、利益がどれだけあっても、被害が出ればそれで帳消しだ。
どれだけ儲けても、赤字になったら意味がない。
まして殺人・傷害・強盗・強姦などの事件が起こったら利益などと言ってられない。
中には例外もいるだろう。
たとえ死んでも傷ついても蔑まれても良い、それよりも金が欲しいという者もいる。
しかし、そういう人間はそう多くはない。
あくまで自分の身の安全を確保した上での事だ。
他人は犠牲にしても、自分を犠牲にはしない。
そう考えるのが人情だろう、あまり褒められたものではないが。
多少の損失は覚悟するにしても、それは本当に当たり障り無い範囲に限られる。
そして、この範囲はとてつもなく狭い。
損失など、ほんの少しでも嫌なものだ。
こんな事、あえて言う必要も無いほど当たり前の事だ。
そんな問題を出来るだけ減らす。
その為にも、出来るだけ冒険者と村人の接触を減らしたかった。
一緒にさせると危険だ。
だったら、接点を減らしていく。
互いの居場所を分ける。
至極簡単な解決方法である。
混ぜるから問題が発生する。
だが、接触点がなければ、衝突など生まれはしない。
区分や区別をはっきりさせるのは、大きな利点がある。
今のところそれは割と上手くいっている。
冒険者は村の外れに駐留している。
村との直接の接触は(比較的には)少ない。
この状態をどうにか維持する必要があった。
更に強化する必要もあると思える。
(そのための体制を作らないと)
だとしてそれを家に逗留してる間に出来るかどうか。
そこが悩みどころだった。




