144回目 世の中そんなもんというだけの、ありふれたお話
(さて、どうするかな)
地元の同年代との接触を今後にどう織り込んでいくかを考える。
ダンジョンへの道作りと、冒険者達の呼び込み。
更に父親にこれらの受け入れ体制の構築をさせねばならない。
それらをどうこなしていくか。
悩ましいものがある。
限られた時間の使い道は難しい。
やるべき事が多い時は特に。
何か一つに専念するにしても、手間がかかる物事に取り組むなら絶対に足りなくなる。
人手や道具が揃っていても、こなせない事も出てくる。
今のトモルは、仕事をこなす人も、仕事を為すための道具もない。
使えるのは、基本的に自分一人だ。
やれる事と言えば、時間をどう使うかを考えるだけである。
(早くどうにかしないと)
ダンジョンへの道作りも大事だが、受け入れ体制の構築も急がねばならなかった。
流入してきた冒険者は今も増え続けている。
噂が噂を呼んでるのか、以前よりも増加している。
しかし、それを受け入れる体制は全くととのってない。
冒険者達は村の外に駐留している。
だが、村人との間の境界線も何もない。
冒険者に求める規律なども作られてない。
作ったとしてもそれらを実行するだけの人手が無い。
つい最近まで辺境の村でしかなかったのだ。
増大した人数を受け入れる体制などあるわけがない。
だからこそ、それを作り出す必要がある。
でなければ、そのうち軋轢と衝突を生み出す事になる。
冒険者はならず者…………そう言うのも何だが、これに近いものがある。
大半が家を追い出された者達だ。
いつ死ぬか分からない危険な作業に従事している。
それだけに明日の事などどうでもいい、そんな刹那的な考えを持っている。
今日は生きてるが、明日は死ぬかもしれないという商売だ。
だったら、今この瞬間を楽しめればいいと思うの。
無理もない事である。
そんな彼等が、暴れ回って村に悪さをする可能性もある。
そんな冒険者を危険な存在とみなし、村の者達が嫌悪感を抱く可能性は充分にある。
下手すれば本当に衝突になる可能性だってある。
もっとも、武装集団である冒険者に村の者達が襲いかかる可能性は低い。
何らかの形で衝突となった場合、冒険者が村の者達を虐殺する可能性の方が高かった。
何せモンスター相手に戦闘を繰り返してる連中である。
戦闘能力は高い。
少なくとも村の者達よりは高い。
そんな者達に襲いかかるほど村の者達もバカではない。
だからこそ不満が溜まりやすいとも言えた。
危険だから排除したい、でも下手に逆らう事も抵抗する事も出来ない。
そうなれば人間は不安や不満を抱え、それが鬱屈した気持ちになっていく。
そうして溜まっていく憤りや怒りはやがて爆発する。
ただし、文句のある対象に直接向かうと決まってるわけではない。
形を変えて別の所に向かう場合だってある。
えてしてそれは、自分達でもどうにかなる者達、すなわち弱者へと向かう。
この場合の弱者とは、力を持たない無力な者というわけではない。
自分達で制御出来る存在という意味になる。
(来るだろうな)
怒れる民衆がどこに向かうのか。
至って簡単である。
領主だ。
領主には権限がある。
同時に責任がある。
領内をまとめるという仕事がある。
それを政府から任されている。
そして、領民はその庇護の下にいる────事になっている。
実際にそれが上手く機能してるかどうかはともかくとして。
慣習や慣例、法律、これらを含めた建前としてはそうなってる。
それは間違ってないのだが、だからこそこれが厄介の原因にもなっていく。
それだけの仕事があるのに、なぜやらない────。
村人達はそう言って領主に詰め寄るだろう。
なんで仕事をしないんだと。
そして、涙ながらに訴えるだろう。
早く何とかしてくれと。
…………形を変えた脅迫である。




