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14回目 終わってからが本番と思っていたが

 制裁を終えたトモルであったが、これで終わらせたつもりはない。

 タケジ達は頷いたが、すぐにでも言いつけを破るだろう。

 もとより守り続けられるような事ではない。

 外に出ないなど、まずもって不可能なのだから。

 トモルも、それがいつかは破られると思っていた。



 それはそれで構わなかった。

 その時は、連中を本当に処分すれば良いのだから。

 良い口実になる。

 ただ、それをやるにも今は力が足りない。

 まだまだもっとレベルを上げていき、更に力の差を圧倒的なものにしたかった。



(まあ、あいつら程度ならとっくに上回っていたけど)

 タケジくらいならどうとでもなる。

 それを確かめる事が出来たのはありがたかった。

 比較対象がないから、自分がどの程度強いのか分からなかった。

 だが、とりあえず子供相手ならば、軽く上回ってるのだけははっきりした。



 あと一つ二つレベルを上げれば、おそらく大人にも匹敵するようになるだろう。

 そうなれば、脅威となるものは更に減る。

 今のままでは、タケジ達はともかく他の大人達に押さえつけられてしまうだろう。

 それだけは避けねばならなかった。



(来年は無理かもしれないけど、再来年くらいには)

 その頃にはレベルがもう一つ上がってるだろう。

 タケジとの差は更についている。

 大人達との差も縮まっているはずである。

 とりあえずタケジ共には、それまで大人しくしていてもらいたかった。



 でなければ、他の子供達がかわいそうでしょうがない。

 教師をしてる神主も哀れだ。

 皆がタケジ達に振り回されている。

 こんな状況を放置は出来なかった。



 懸念するのはタケジの親などである。

 それらが今回の事で何かしら動くかもしれない。

 子供が酷い目にあえば、親として何か言いはするだろう。

 そうでなくても、庄屋としての立場上、放置は出来ない。

 何もしなければ、それはそれで問題だ。

 主に面子とか意地とかプライドの問題になる。



 なのだが、どうもそういう動きが見えない。

 念のためにタケジの集落の子供達にも話を聞いた。

 しかし、タケジやその家族らが何かしらの動きをしたという事は無い。

 それどころか、トモルの言いつけ通り、家から出ない日々をおくってるようだった。



 もちろん親などには外に出ろと言われるし、実力で家から放り出される事もある。

 しかし、その都度家の中に戻ろうとするとか。

 いったい何がどうしたのだと誰もが思っているが、答えを知る者はいない。

 タケジ達も何があったのか言えば良いのだが、誰も口を割ろうとしてないらしい。



 困り果てた大人達であるが、何が起こったのかわからなければ対処のしようもない。

 一応、周りの子供達にも何かあったのかを聞いてはいる。

 しかし、これといった情報を得る事もない。

 子供達は「知らない」「分からない」と口にするだけ。



 ただ、そんな大人達に子供は別の情報を提供していく。

 タケジ達の今までの行いだ。

 それを並べていってるという。

 求めたものとは違うが、別の意味で貴重な情報を大人達は得る事になった。



 だからと言って、タケジやその家が対応を迫られるというわけでもない。

 なんだかんだ言っても、まだ庄屋としての権勢はほこっている。

 かなりぐらついてはいるが、今すぐどうにかなるような事はない。

 将来への布石にはなるだろうが。

 ともかく、今暫くは時間が稼げるようではあった。

 トモルとしてはそれだけでありがたい。



 思ってもいない成果もあった。

 トモルに接する子供達の態度が格段に良くなった。

 これまでも悪いものではなかったが、タケジを叩きのめして以降は更に態度が良くなっていた。

 トモルに従う、進んで子分のように振る舞う者も出てくる程だった。



 それを利用して偉そうな事をしようとする者も出てきた。

 トモルの威を借りる輩だ。

 利用するのがタケジからトモルに代わったようだった。

 そういう輩がトモルは嫌いなので、逐一潰していった。

 タケジを潰して自分がタケジのようになったのではお話にならない。



 何より、他人の威勢を利用しようとする根性が気にくわない。

 それは、曲がりなりにも自分の力でのし上がっていたタケジにも劣る。

 もちろんどちらが良いという事もなく、どちらも悪い事である。

 比較するのもばかばかしい。



 だが、やるなら自分の力でやれと、馬鹿な事をした者にはきつく言い渡しておいた。

 ついでにそういう者達は、子供達の中で村八分にさせていく。

 馬鹿な事をやった者には、相応の処分が必要だ。



 何にせよこれでトモルは、子供達の支持を得る事が出来た。

 将来の集落や村を担う者達からだ。

 これはこれで大きな意味を持つ。

 今後、大人になった時にはこれが活きる時も来るだろう。



 反対にタケジ達は一気に失墜していった。

 今までの悪行もあるので、周りの子供達からそっぽを向かれている。

 それも以前ならば、力尽くで従わせる事も出来ただろう。

 だが、そんな事をすればトモルが出てくるのが彼等も分かっている。

 迂闊な事は出来なかった。



 そもそも家から出ようとしないのだから、影響力を持つことも出来ない。

 自然とタケジ達は子供達の中から存在しない者達になっていった。



(追放された猿山のボス、ってとこなのかなあ……)

 何となくそんな風に思った。

 失墜すれば全てを一瞬で失う。

 哀れと思いつつ、明日は我が身と気を引き締めた。



 何がどんな風になって地位を失うのかは分からない。

 タケジもこうなるまでは、自分の立場が今後も続くと思っていただろう。

 それがトモルに起こる可能性は常にある。

 そうならないように、それなりの力を手に入れておきたかった。



 なお、思ってもいなかった事と言えばもう一つある。

 事が終わってから数日後。

 神社の方での出来事を尋ねていたトモルに女の子が一人近づいていく。

 トモルより一つ年下であるその子は、トモルの前に出ると、

「ありがとう」

と言って頭を下げた。



 いったいなんだと思ったトモルだが、すぐに思い出した。

 その子が常習的にタケジ達からいじめられていたのを。



 そんな彼女だからこそ、トモルに礼を言いたかったのだろう。

 彼女に何があったのかは分からないが、少なくともタケジ達から解放されたのは事実である。

 その一事が彼女にとってどれほど大きな事だったのかは、想像するに余りある。

 そんな彼女にトモルは、

「気にするな」

と返した。

「俺もあいつが気にくわなかったし」

 その返事に彼女は、笑顔を浮かべた。



「ま、これからは気兼ねなく神社に通え。

 読み書きとか計算が出来ると、色々と便利だぞ」

「うん!」

「それが出来れば、うちで働いてもらう事になるかもしれないし」

「本当?!」

「人手が足りなければね。

 今はどうか分からないけど」



 この辺りは現在どのくらいの使用人を抱えてるのか、家の収入がどれだけなのかにかかってくる。

 また、たとえ人手不足だったとしても、さすがにある程度の素養は最低条件になる。

 読み書きや計算が出来ないとどうしようもない。

 また、来客もあるので、最低限の礼儀作法も求められる。

 ある程度は館の方で教えるにしても、その為にもある程度の素養としての教養は必要だった。



「まあ、そのうち空きが出るかもしれないから、その時にはよろしくね」

「うん、分かった。

 トモル兄ちゃんのところで働く」

「おう、頼む」

 トモルは他愛ない一時の話と思って気楽にそう言った。

「ええっと、サエだったっけ?」

「うん」

 彼女の名前である。

「待ってるからな」

「うん!」



 この時、彼女は絶対にトモルの所にいくのだ、と決意した。

 以後、サエというこの村娘は、他の誰よりも熱心に手習いに励んでいく事になる。

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