138回目 さほど望んでもいなかった帰省
子供にあるまじき悩みを抱えつつ、やっと帰省に向かっていく。
家に興味など何一つないし、帰宅する意味も分からない。
けど、そこでの作業を考えると出向かざるえない。
手下を受け入れる態勢を作る為にもだ。
多少なりとも必要な作業を進めておかねばならなかった。
ただ、そう考えると家族というのが鬱陶しい。
活動をするにもそれらを考慮しないといけないので面倒で手間がかかってしまう。
(どうにかならないかねえ)
そう思いつつトモルは、駅馬車に乗って実家へと向かっていった。
そもそもとして、こうして馬車に乗ってるのも面倒ですらあった。
自分の足で走った方が早く帰れるのだから。
そうして戻った家に、トモルは無愛想にならないくらいの態度で、
「ただいま」
と告げた。
馴染みの使用人などが出迎えてくれる。
仕事をしてた父も一旦手を止めて出迎えてくれた。
母と弟妹達も。
「おかえり」
「ただいま、父さん、母さん」
弟と妹にも声をかけていく。
一通り挨拶を交わしてから自分の部屋に戻り、荷物を置いていく。
その部屋も兄弟で共用だから少しばかり狭くなった印象があった。
(まあ、そうだろうな)
貴族とはいえ末端の家である。
それほど広い自宅なわけがない。
平民庶民よりは間取りは大きいが。
前世の日本における一般家屋と大差ない暮らしだ。
(そう考えると、前世の日本ってのは全員が豊かだったんだな)
社会全体で考えるとそうなる。
その中で格差は当然あるが、それは問題になどならない。
たとえ格差があったとしても、全体としては豊かなのだから。
例えばこの世界よりは。
日本の一般家庭は、この世界の末端貴族と同等の家に暮らしている。
そんな暮らしが出来る者達を貧しいとはいえない。
逆に言えば、この世界で日本並みの家屋に住むなら、最低でも貴族でなくてはならない。
実際、この世界の一般人は、狭い戸建てに住んでいる。
それこそ、10畳一間とかいうような。
それがこの世界の、比較的ありふれた生活だ。
日本では、それよりは豊かな暮らしが出来ていた。
そして、それとそう変わらない生活をこの世界でも出来た。
それはとても幸運なんだろうと思えた。
そんな実家に帰ってしばらく。
トモルは少々暇をもてあました。
帰省したトモルを交えての食事が控えている。
本日のメインイベントだ。
それまで時間がある。
なのに、やる事が無い。
(どうしよっかな)
一人で時間を潰すのも難しい。
そうするだけの娯楽が無いのがこの世界の欠点の一つだった。
双六や将棋などはあるのだが、トモルはそれらを趣味とはしていない。
やっても面白くないし、そもそも遊び方もさほど知らない。
駒の動かし方くらいは知ってる程度だ。
何より相手がいない。
家にいる者は誰もが何らかの仕事をしている。
そんな彼等を誘って遊ぶ事など出来るわけがなかった。
年下の弟妹達もまた、この手の遊び相手にはならなかった。
子供のおもりにはあまり好きではない。
(どうしよっかな)
これが一人きりなら好き勝手に動けるのだが。
なまじ家にいるから色々と束縛も生まれる。
(帰省なんかするんじゃなかったな)
来てしまったものは仕方ないが、今度は控えるようにしようと思った。
(夜になるまで行動はお預けか)
誰にも見られないで動くとすると、それまで待つしかなかった。
そうしてるのが非常に勿体なかった。
すぐにでも動き出しておきたいのだが、それもままならない。
何とかならないものかと思ってしまう。
それでも何をどうする事も出来ない。
なので、これからの事を考える事にする。
それ以外時間の使い道はない。
とはいえ、それも今まで何度も繰り返してきた事である。
今まで考えてきた事を再確認するだけだ。
あとは現地に赴いて、実際の状態を確かめるしかない。
もうそこまで考えている。
これ以上思い浮かべても、無駄で退屈なだけだ。
(早く行きてえなあ……)
ここで悩んでるよりも、さっさと外に出向いてしまいたかった。




