134回目 どうしようかと思ってる者達にも、それなりの未来はあったようで
「さて……」
トモルが走り去った後、残された冒険者達は早速行動を開始した。
言われた場所へ、別のダンジョンへの移動を開始していく。
ぐずぐずしてられない。
手下になると言ったのだから、言われた事くらいはしっかりやらねばならない。
彼等は急いで仲間の所へと向かい、トモルの言葉を伝えていく。
別のダンジョンへの移動、そこにいるトモルの手下との合流。
それを聞いた者達の反応は様々だ。
だが、その気のある者達はすぐに部屋へと戻っていく。
彼等のさほど多くはない荷物をまとめるために。
どのみち、この町に長居する理由は無い。
ダンジョンが無くなった今、この場所には何の価値もないのだから。
冒険者にも、それらを相手に商売をする者達にも。
価値が無くなった場所に長居してるわけにはいかない。
すぐに移動を開始しなくてはならない。
食い扶持になるようなものがある所へと。
特に冒険者はモンスターを相手にするしかない商売である。
ダンジョンのない今、この場所に留まる理由は全くなかった。
ダンジョンを失った事は痛い。
さすがに生活手段が失われたのだから、この先について考えてしまう。
だが、それを成し遂げた者との接点も生まれた。
自分達を超える絶大な力を見て、冒険者達は即座に考えていった。
こいつの下についてしまおうと。
どれだけの利点があるのかは分からないが、敵対するよりはマシである。
それに、一緒にいればなんらかのおこぼれがあるかもしれないとも考えている。
それを手に入れるためには、可能な限り近くにいなくてはならない。
だからこそ彼等は、今後の人生を考えてトモルについていく事にした。
打算の産物としか言いようのない思考であり決定である。
だが、生存戦略としては間違ってない。
だからこそ彼等は、別の地域にあるダンジョンを目指していった。
絶大な力であるトモルの指示に従って。
とはいえ、身軽な冒険者ならともかく、それ以外の者達はそうはいかない。
食堂、宿屋、鍛冶屋などなど。
設備がなければ成り立たないこれらの商売は、これからどうすればいいのかと途方に暮れてしまう。
まさかこのまま営業を続けるわけにもいかない。
いずれは出ていかねばならなくなる。
だが、そうするとしても生活をどうするのか、という問題になってくる。
設備を持って行けるなら良いのだが、そう簡単にはいかない。
まさか宿屋を担いでいくわけにはいかない。
鍛冶場だって、炉や加工用具などを持ち運ぶのが大変だ。
金槌と金床だけが作業道具ではない。
鍛冶場はそれそのものが作業道具なのだ。
商店などにしてもそれは同じである。
陳列する棚も在庫を置く倉庫も含めて全てが商売道具である。
それをどうするのか、という問題があった。
そんな彼等に光明がもたらされるのは、それから程なくになる。
ダンジョンが無くなった事で、この地域を活用する事が出来るようになった。
ここにあったダンジョンは、もともと人が住んでいた場所に発生したものだ。
そこを再度人の手に取り戻すための作業が始まっていく。
手始めに田畑を再建しようという動きが出てくる。
そうなると、既にそこにいる人が役立つ事になる。
曲がりなりにも人が生活していたのだ。
必要な業種などはかなり揃っている。
これらを用いれば、わざわざ職人や商売人を呼び込む必要もない。
労働者などを収容する宿もある。
なんなら、冒険者をそのまま用いても良い。
根無し草である彼等は、安定した生活を望む者が多い。
特に冒険者は、農家の三男坊以下の出身が多い。
そのまま家に居ても何も得ることのない穀潰しとして扱われていた者達だ。
もし自分の田畑が持てるならば、と考えてる者はたくさんいる。
そういった者達であるから、労働力として働くのを躊躇う者はいなかった。
そうした動きは、ダンジョン崩壊を見た衛兵の報告ではじまる。
そこからの動きはかなり早いものがあった。
すぐに代官が派遣され、当面の統治をしていく事になった。
居残ったというか、そうせざるを得なかった者達は、そのまま再興の為の要員として用いられるようになる。
途方にくれていた商売人達にとって、これは思いもよらない朗報になった。
以後、彼等はダンジョン消滅後に作られる集落の、最初の住人となっていく。
それでもそこからあぶれる者は出てくる。
人手が必要なのは確かだが、必要な人数がそれほど多いというわけでもない。
何せ、村一つ分くらいの規模でしかないのだ。
比較的稼ぎの良かった冒険者相手に商売をするのとは違う。
経済規模で言えば、それほど大きくはないのだ。
そうした者達は、ある程度身の回りのものを処分して旅立つ事となった。
その際に、この場に残る事にした者達が、旅立つ者達から設備などを買い取っていく。
こうして規模の縮小を果たしていったダンジョン前の町は、農地再建の拠点として生まれ変わっていった。
以後、トモルがダンジョンを破壊した跡地では同じような事が起こっていく。




