131回目 まさかまだ生き残ってる者がいるとも思わず
おそらく、ダンジョンの奥まで進んでいたであろう冒険者達。
それらもダンジョン崩壊を察して出入り口を目指したのだろう。
その途中で、モンスターと遭遇したのだろう。
モンスターはそこで冒険者に襲いかかった。
逃げ出したいにもかかわらず冒険者達は、モンスターとの戦闘を余儀なくされていた。
その姿を感じ取ったトモルは、すぐに動き出した。
強化された能力をもって、襲いかかってるモンスターに斬りかかる。
魔術を使えれば良いのだが、冒険者達と接近しすぎていたためそれも出来ない。
細かな制御をすれば、モンスターだけを倒す事も出来るだろう。
けど、それも面倒だった。
それに、モンスターもそれほど多くはない。
せいぜい30匹といったところだろうか。
並の冒険者では手こずるだろうが、トモルには何の事はない。
おどりかかると同時にトモルは、モンスターを撃破していった。
それを見ていた冒険者達は唖然としていった。
自分達が苦戦していた相手を、たった一人で蹴散らしたのだ。
驚くなというのが無理である。
そんな彼等にトモルは、
「急げ」
と告げる。
「もうすぐ崩壊だ。
出入り口までいかないと消滅するぞ」
「あ、ああ」
気を取りなおした一人が返事をする。
だが、すぐに顔色を曇らせる。
「そうしたいけど、仲間が」
「どうした?」
「怪我をしてるんだ」
そう言って離れた所にいた一人に目を向ける。
確かにそこにいた者は血を流していた。
それも足から。
これでは移動速度が大幅に低下するだろう。
「なあ、傷薬とか持ってないか。
よければ譲ってほしい。
金は……足りるかどうか分からないけど払うから」
そう言ってくる冒険者達であるが、トモルはそれを無視していく。
怪我人の所にいって、状態を確かめる。
瀕死ではないが出血が酷い。
止血はされてるが、怪我のせいだろう。
そんな怪我人に、トモルは治療のための魔術を使っていく。
怪我が瞬時にふさがり、冒険者は万全の状態に回復した。
「な……」
「凄い……」
それほど普及してない魔術の効果を目にして、彼等は一様に驚く。
同時に、そんな魔術を惜しげもなく使うトモルに愕然とした。
普通、ここまでするようなお人好しはまずいない。
「あ……りがとう。
おかげで助かる。
ああ、でも、お礼はどうすればいいかな」
怪我を瞬時になおしたとなると、相当高額な謝礼が求められる。
それを要求されたらどうしようと彼等は考えていた。
持ち合わせで足りればいいがと思いつつ。
踏みたそうとしないあたり、善良な人間なのかもしれない。
そんな彼等にトモルは、
「別にいらん」
と応えた。
「それより、さっさと脱出しろ。
消滅したくないならな」
「……ああ、分かった。
そうさせてもらう」
言って彼等はその場から離れようとした。
見返りに何も出せないのは申し訳ないと思ったが、相手が断るならそれはそれでいいのだろうと。
それよりも生き残る事を考えねばならない。
ここに留まっていたら、崩壊に巻き込まれてしまう。
「その前に」
そんな彼等にトモルは魔術を使っていく。
身体能力強化の魔術を。
「……強化魔術を使った。
これで走る速度も上がるはずだ。
途中でモンスターに襲われても撃退は出来るだろう」
「何から何まですまない」
「いいから行け」
そう言ってトモルは更に奥の方へと向かった。
その背中を見ていた冒険者達は、トモルが瞬時に消えていくのを見て驚く。
モンスターを倒した時といい、すさまじい身体能力があるのを察する。
それでも、礼儀として立ち去った方向に頭を下げる。
「じゃあ、行くぞ」
頭を上げると冒険者達はすぐに駆けだした。
そしてすぐに魔術の効果を実感する事になった。
一駆けで凄まじいまでの速度が出るのだ。
「うわ、うわ、うわ!」
驚きながらも彼等は、通常の何倍にもなってる速度で出入り口に向かった。
想定よりも速く。




