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13回目 これがお前らへの報いである

 その日はモンスター退治に出かける事もなく、神社へと向かった。

 途中、モンスターが出てくる事を懸念して鉈や小柄は持ってきた。

 魔術用の核も。

 村や集落の中とはいえ、全くモンスターが出てこないわけではない。

 どこからともなく侵入してる事はあるので、田んぼや畑、集落付近で襲われる事もある。

 だからこそ家にいる時以外は何らかの武装をしてるのが世の常である。



 もっとも、そんな事は滅多にないので、あまり気を張る必要も無い。

 トモルもそれ程気にはしていない。

 出てきたとしても即座に撃退出来るだけの腕はある。



 そんな事よりも、タケジ達の方が気になった。

 これから成敗するつもりであるが、さてどうやってしたものかと考える。

 一応、集落の子供達には色々と指示は出してある。

 事を起こすための対策として。

 それらが、果たして上手くいくかどうか。



(やってみるまで分からないか)

 結果というのは出るまで何がどうなるか分からない。

 なのでトモルは事前の予定はあまりあてにはしてなかった。

 何もしないよりはマシというくらいの気持ちでいる。



(しかし、結構遠いな)

 神社までの道のりだ。

 歩いてみるとやはり遠かった。

 送り迎えで馬車を出してるのもむべなるかな。

 距離にしたら何キロあるのやら。

 子供の足では少しこたえる。



 ただ、レベルが上がったおかげか、トモルはそれほど疲れてもいなかった。

 むしろ、思ったよりも早く到着して驚いてる。

(これもレベルアップの成果か?)

 たぶんそうなのだろうと思った。

 能力値が上昇するというのは、こういう事なのだろうと。



 そして、一年ぶりに見る神社への階段をのぼっていく。

 今の時間なら、子供達はまだ手習いの最中。

 外には誰もいないはずである。

 それでも、何をどうしてるのか様子を見る為に中に入っていった。

 潜伏/隠密の技術が役に立つ。

 誰にも見えない位置をとりながら、手習いをしてる場所まで向かう。

 そして物陰から、中の様子を窺っていく。



 さすがに習ってる最中にはそれほど酷い事はしてない……そう思っていたがそうでもなかった。

 近くの子供の習字は邪魔するわ、子分共と騒いでるわ。

 それはそれはとても邪魔な存在になっていた。

(学級崩壊そのものだな)

と前世の言葉でその状態を言い表す。



 教えてる先生役の神主も手を焼いており、周りの子供も迷惑そうであった。

 これなら外に放り出した方がよっぽど良いのだが、なかなかそうもいかないのであろう。

 見るに堪えない惨状を物陰から見ながら、トモルは時間が経過するのを待った。

 昼を越えて学習時間が終わるまで、中に入る事は出来ない。

 今は大人しくしてるしかなかった。



 待ちに待った昼がやってくるまで、トモルは退屈にとにかく堪えた。

 これからが本番であるのだが、その事による緊張はない。

 そちらはどうにでもなると考えている。

 それよりも、早く時間が過ぎ去ってほしかった。

 待つのはこれはこれで辛いものがある。



 幸いなのは、神社まで歩いてきた疲労が抜けた事だ。

 これだけは本当に助かった。



(さてと)

 そんな暇を紛らわすために、物陰から様子を見ていく。

 タケジ達の姿を見るのもいやではあるが。

(そうやって傍若無人に振舞ってるのもあと少しだ)

 そう思って苛立ちを沈める。

 そうして待ってるうちに、ようやく学習時間が終わる。



 習い事が終わった後のタケジは、いつも通りに行動していった。

 子分を集め、周りの子供達を集め、そのまま遊びに連れていく。

 もちろん他の子供達の意志や意向など聞いてはいない。

 彼がやりたい事をやりたいようにやるだけだ。

 完全に我が儘であり、その我が儘に付き合わされる子供達もため息しかもらさない。

 見ているトモルは呆れた。



(どんな暴君だよ)

 あまりの非道っぷりに呆れる。

 だが、子供達が逆らえないのも無理はない。

 この一年で体格は更によくなったようで、他の者達に比べて身長も横幅も一回り大きい。

 肥満というのとは違う、肉の厚みというような体型だ。

 単純な力だけでは、ここにいるどの子供も勝てないだろう。

 だからこそ、好き勝手に振る舞えるというもの。

 やはりこのまま放置するわけにはいかない。

 タケジが好き放題やってる中に、トモルは進み出ていった。



 その接近を察知出来た者はどれだけいるか。

 子分の一人がトモルの拳骨で吹き飛ばされた時か。

 別の一人が思いきり足の甲を踏みつけられた時か。

 気配を断っていたトモルの接近は、その瞬間までに感知されなかった。



 なお、横薙ぎの拳骨をもらった者は、顎を砕かれている。

 踏んづけられた足の甲も、骨が砕かれている。

 両者ともに、最初は攻撃を受けた部分に重みを感じた。

 それからじわじわと痛みをおぼえていった。

「……うわあああ!」

「……ぎゃあああ!」

 悲鳴が上がる。

 それにようやくタケジ達が気づいた。



 タケジ達の視線がトモルに集まる。

 その視線を真っ正面から受け止めたトモルは、とてつもなく馬鹿にした表情で彼等を見渡した。

「本当に腐ってんな」

 蔑みきった目でタケジ達を見つめる。



 人が人を見る目ではない。

 汚物やゲテモノを見る目であった。

 それを見たタケジは何を思ったか。

 それは誰にも分からない。



 だが、トモルが容赦なく拳を振り、足を踏み潰したのを見た。

 それを見て浮かべたのは驚愕。

 そして、恐怖だった。



 タケジも察したのだろう。

 トモルが何をしたのかを。

 何をしようとしてるのかを。

 自分がどうなってしまうのかを。



 そう考えてる間に子分の一人が膝を砕かれた。

 一人が手首をひねり砕かれた。

 そこには一片の容赦もなかった。

 何の躊躇いも見せないその動きに、タケジは本能的な恐怖をおぼえた。



 恐怖を抱いたタケジは、それでもトモルに向かっていく。

 体格では勝ってるというのもあっただろう。

 ここで逃げたら沽券に関わると思ってもいたのだろう。

 一年前の事も忘れ、トモルに向けて握った拳をぶつけていく。

 それをトモルは平然と正面から掴んで止めた。



「……え?」

 呆けた驚きの声が上がる。

 体重をのせた渾身の拳が止められたのだ。

 それも極めてあっさりと。

 対格差を考えるとありえない事だった。



 そうして握ったタケジの手を、トモルは簡単にひねる。

 それでタケジの体は簡単に転がされた。

 一年前と同じ、関節を極めての技である。

 だが、一年前よりももっと簡単にタケジは転がされた。



 技の技術が向上している。

 それ以上に、土台となる力が隔絶していた。

 タケジすらも問題としないほど大きくなっている。

 総合レベルの上昇の効果が出ていた。



 関節を極められたまま、逃げる事も出来ないよう固定される。

 そうしてタケジは、地面に叩きつけられていく。

 以前と同じように。

 逃れようのない状態でタケジは頭に衝撃を受けた。

 回避出来ない状態で頭を地面に叩きつけられた。

 衝撃に頭を揺さぶられる。

 これも以前と同じように、白目をむく。

 だが、それで終わったわけではなかった。



 トモルの攻撃はそれからも容赦なく続いた。

 持てる力と技の全てを遠慮無く叩き込んでいく。

 すぐにタケジは両手両足を使えなくさせられ、打撃を体中に受けていく。

 それだけでなく、無理矢理起き上がらされては地面に投げつけられていく。



 土の上なので、アスファルトやコンクリよりはマシだ。

 それでも、受け身がとれなくされたまま投げつけられるのだ。

 衝撃は大きい。

 自分の体重までもが威力に加算されるのだからたまったものではない。

 体格の良さが裏目に出てしまっていた。



 そんな事が何度も続いていく。

 たまに反撃に出ようとするが、それらも何の抵抗にならないまま抑えられていく。

 一方的な攻撃がその後に何度も続く。

 投げられ、殴られ、関節を痛めつけられ、骨がきしみ。

 タケジの顔は打撲で膨れ上がっていった。

 体にも内出血の痣があちこちに出来上がっていく。



 ついには動く事もままならなくなったところで、タケジはようやく解放された。

 なお、タケジの取り巻き達は、逃げる事も忘れてその場に腰を落としている。

 一方的にやられてる親分を、涙や鼻水を流しながら見つめている。

 股間からは際限なく汚物が垂れ流しにされていった。



 ひとしきりタケジを叩きのめしていたトモルは、それを担ぎ上げる。

 そうして子分達のほうにタケジを放り投げる。

 目の前にボロ雑巾になったタケジが転がる。

 それを見て、彼等もようやく自分達がどうなるのかを悟りはじめる。

 だからといってどうする事も出来なかったが。



 たった一人による一方的な暴行は、それから三十分ほど続いた。

 体のあちこちをボロボロにしたタケジ達一味は、仲良く一カ所に集められた。

 トモルはそんなクズに治療魔術を使っていく。

 痛みが引いていくのに驚いた彼等であるが、動き出そうとした瞬間にトモルの制裁を受ける。



「誰が動けって言った?」

 なおった怪我が、ひいたはずの痛みが復活していく。

 おかげで動きをすぐに止めた。

 しかし、それもまた虚しいものではあった。

 トモルは怪我がなおった者を再び叩きのめしていく。

 全く容赦のないその攻撃は、再び身動きが出来なくなるほど痛めつけられるまで続いた。



 叩きのめし、怪我を治療魔術でなおし、再び叩きのめす。

 核が尽きるまで何度もそれを繰り返していく。

 何度も制裁の往復を行われたタケジ達は、対抗する気力を失っていた。

 相手は一年前にも増して手におえなくなっている。

 全く歯が立たない相手に、タケジ達は何も出来なかった。



 死すらも覚悟した。

 死ねるならその方が楽ではないかとも思えた。



 叩きのめされる度に怪我をなおされ、また痛みつけられるという苦しみ。

 終わりのない地獄のようだった。

 これが終わるなら、いっそ死んでもいいと思った。

 繰り返される地獄に、タケジ達は自らの不運を呪った。



 そこにはこれまでやってきた事への反省は全くない。

 あくまで運が悪いと考えている。

 やらかした事について考えたりはしなかった。

 こうして叩きのめされてるのが、これまで自分達がやってきた事に原因があるとは思ってない。



 そんなタケジたちへの暴行と治療の往復を続ける。

 その繰り返しもようやく終わる。

 タケジ達の怪我は魔術によって大分なおっていた。

 それでも全てが元通りとはいかない。



 砕かれたりヒビが入っていた骨は、まだ完全にくっついてはいない。

 内出血なども完全におさまってはいない。

 ひしゃげた肉が元に戻るのにも時間が必要だろう。

 トモルの技術レベルでは、それらを完全に治すのが難しかったからでもある。

 また、完治させるつもりが全く無かったというのもある。



「痛いか?」

 尋ねる、というよりは恫喝するような口調だった。

「今度悪さしたら、この程度じゃ終わらせない。

 お前らの家ごと叩きつぶす」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 沈黙がその場にひろがっていく。



 タケジ達からの返事や反応はない。

 だが、トモルに向ける表情が全てを物語っていた。

 恐怖すらも突き抜けた恐怖。

 それらが彼等の顔に浮かんでいる。



「まあ、何が悪いかも分かってねえかもしれないけど。

 でもいいか。

 馬鹿で屑なお前らにも分かるように言ってやる。

 いいか?」

 その声に、タケジたちは返事も出来ずにただ目を向ける。

 うなだれながら。

「二度と家から出てくるな。

 どんな事を言われようと、絶対に家から出るな。

 出たら俺が叩きつぶす。

 お前らだけじゃない、お前らの家族も全部だ。

 分かったか?」

 返事はない。

 トモルはそんな彼等に蹴りを入れていく。

 誰もがその場にうずくまった。



「分かったのか?」

「はい、分かりました!」

「分かりました、分かりました」

「分かったよ、わかったってば」

 ようやく返事をした彼等は、トモルの求める答えを出していく。



「お前らの家には見張りをつけておく。

 俺にばれなきゃ大丈夫なんて思うなよ」

「はい!」

「分かりました!」

 頭を下げて平身低頭する彼等を見てトモルはその場を後にした。

 残ったタケジ達は、自分達だけになった後も、その場から動く事が出来なかった。

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