129回目 気持ちのわだかまりはともかく、利害を考えればこれが正解であるだろう
冒険者達の判断は正解だったと言えるだろう。
トモルは次々に他の冒険者と合流していく。
その人数は50人以上になっていた。
戦闘力は格段に強化された。
「これ以上は無理だな」
そこまで集まったところで、トモルは言う。
ダンジョンの中心部の方向を見てだ。
もう崩壊はだいぶ進んでいる。
そろそろ出入り口に戻らねば危険な状態だった。
「でも、他の連中もまだいるぞ」
「時間がない」
生存者との合流を促す者もいるが、それをトモルは一言で切り捨てた。
「それに、まだ生きてるかも分からない。
それを探しにいく間に、崩壊に巻き込まれたくはない」
「そりゃあ、まあ……」
言われて納得してしまう。
「モンスターに倒されてるかもしれない。
その可能性がもう高くなってる」
そう言われたらもう何も言えなかった。
崩壊が始まり、モンスターの大量移動が始まっている。
その流れに巻き込まれたらおしまいである。
ここにいる50人余りの冒険者は、トモルによってその難を逃れたが。
そうでない者達が生き残る可能性は低い。
皆無と言っても良い。
まだ生き残ってる者達もいる可能性は確かにある。
しかし、それを確かめるために探して回るのも難しくなってきてる。
帰還がそれだけ難しくなる。
「探しに行きたいなら止めない。
けど、俺は外に出る。
助けに行きたいなら、あんたらがやってくれ」
そう言ってトモルは歩き出す。
冒険者達の事を顧みる事もなく。
そんなトモルに冒険者達は黙ってついていった。
悩みや逡巡を抱きながらも。
今、生き残る為にはトモルについていった方が得策である。
その結果として、まだ生きてるかもしれない同業者を見捨てる事になろうとも。
もし生きてるなら助けに行きたいとは思う。
だが、彼等にそれだけの力はない。
自分自身が生還出来るかどうかも分からないのだから。
薄情だとしても、トモルについていくしかない。
同業者への同情も、生きて帰りたいという本能ほどではないのだ。
それが彼等のいつわらざる気持ちだった。
何にしろ、トモルについていったのは正解ではあっただろう。
ここでも彼等は生存を選択する事が出来た。
出入り口にてそれがはっきりする。
そこは殺到するモンスターがひしめいている。
50人の冒険者であっても、そこを突破するのは難しい。
それは当の冒険者がよく理解している。
自分達の力ではそこを突破する事は出来ないと。
何人かは生き残るだろうが、大半は死ぬ事になる。
それほどにモンスターは大量に集まっていた。
「じゃあ、行くぞ」
そう言ってトモルは前に進んでいく。
出入り口にひしめくモンスターに向かって。
唖然とする冒険者達であるが、すぐに考えを変える。
モンスターを簡単に撃退してきたトモルならば、このモンスターも簡単に撃破するのではと。
実際、その通りになった。
冒険者がそこで見たのは、予想すら出来なかった奇跡の行使である。
風が吹きすさび、地面が形を変え、水流がモンスターを押し流していく。
そうやって一カ所に集められたモンスターが炎にくるまれていく。
トモルの用いてる魔術によってモンスターは一気に殲滅されていった。
それでもどうにか難を逃れたものもいる。
それらは魔術の効果範囲外から、トモルへと向かっていく。
モンスターの本能はこんな時でも健在だった。
そんなモンスターの反応に、冒険者達も呆れる。
だが、それ以上に彼等は、迫るモンスターを切り伏せるトモルに驚愕をした。
身長を超える長さの、鉈とも斧とも言えるような分厚さを持つ大太刀。
それを事も無げに振るトモルにより、襲ってきたモンスターは簡単に返り討ちにあった。
それを見て冒険者達は悟る。
こいつを敵に回してはいけないと。
そして、下手に逆らってはいけないと。
下手に絡んで突っかかれば、間違いなく命の危機を迎えると。
その事を嫌と言う程理解していった。




